目次
はじめに
「急に、たまが痛いと言い出した」
「陰嚢が赤く腫れている」
「お腹が痛いと訴えて、吐いてしまった」
このような症状がみられたときは、早急な受診が必要です。
陰嚢とは、精巣(睾丸)が入っている袋状の部分です。子どもの陰嚢に急な痛みや腫れが起こる状態を、まとめて「急性陰嚢症」と呼びます。
急性陰嚢症にはいくつかの原因がありますが、特に見逃してはいけないのが「精巣捻転」です。治療が遅れると精巣への血流が途絶え、精巣を残せなくなる可能性があります。
現在、お子さんに急な陰嚢の痛み・腫れがある方へ
この記事を最後まで読むより、受診を優先してください。夜間・休日でも、泌尿器科または小児外科に対応できる救急病院へ相談しましょう。
急性陰嚢症とは?
急性陰嚢症は病名ではなく、「急に陰嚢が痛む・腫れる」といった症状を起こす病気の総称です。
子どもの急性陰嚢症では、主に次のような病気が考えられます。
- 精巣捻転
- 精巣付属器捻転
- 精巣上体炎
- 陰嚢や精巣の外傷
- 鼠径ヘルニア嵌頓
- IgA血管炎
- 流行性耳下腺炎に伴う精巣炎
- 特発性陰嚢浮腫
この中には自然に改善することが多い病気もありますが、すぐに手術が必要となる病気も含まれています。
問題は、痛みの強さや見た目だけでは原因を見分けにくいことです。家庭で「軽そうだから大丈夫」と判断することはできません。
👉 急性陰嚢症は原因によって治療の緊急性が大きく異なるため、家庭で見分けようとせず受診しましょう。
陰嚢の痛みだけとは限りません
急性陰嚢症では、次のような症状がみられます。
- 陰嚢が突然痛くなる
- 陰嚢が赤く腫れる
- 左右の精巣の位置が違って見える
- 下腹部や足の付け根を痛がる
- 吐き気や嘔吐がある
- 痛くて歩けない、動きたがらない
- 股間を押さえている
- 赤ちゃんの陰嚢が硬く腫れている
- 原因の分からない腹痛を繰り返す
精巣捻転でも、発症直後は陰嚢の腫れや赤みが目立たないことがあります。また、子どもが恥ずかしがって陰嚢の痛みを言えず、「お腹が痛い」「気持ち悪い」とだけ訴えることもあります。
腹痛や嘔吐を診る際に陰嚢の確認が必要となることがあるのは、このためです。
👉 男の子に突然の下腹部痛や嘔吐があるときは、陰嚢の痛みや腫れがないかも確認してください。

最も緊急性が高い「精巣捻転」
精巣捻転とは、精巣につながる精索という部分がねじれ、精巣への血流が悪くなる病気です。
新生児期と思春期に多くみられますが、それ以外の年齢でも起こります。睡眠中や安静時に突然発症することもあり、運動や外傷がなくても起こり得ます。
代表的な症状は、片側の陰嚢に突然起こる強い痛みです。ただし、下腹部痛や吐き気、嘔吐が目立ち、陰嚢の痛みをはっきり訴えない場合もあります。
精巣を残せる可能性は、血流が途絶えていた時間とねじれの強さに影響されます。一般的には、発症から6~8時間以内の治療が非常に重要とされています。
ただし、「6時間を過ぎたから手遅れ」という意味ではありません。ねじれの程度には個人差があり、時間が経過していても精巣を残せる場合があります。発症から時間が経っていても、ためらわず受診してください。
また、いったんねじれが自然に戻ると、痛みが急に軽くなることがあります。これは「間欠性精巣捻転」と呼ばれ、再びねじれて血流が途絶える可能性があります。
👉 精巣捻転は時間との勝負ですが、発症からの時間にかかわらず、一刻も早い受診が必要です。
精巣捻転以外にも原因があります
精巣付属器捻転
精巣の近くにある小さな組織がねじれる病気で、学童期に多くみられます。
精巣そのものへの血流は保たれるため、診断が確定すれば、安静や鎮痛薬などで改善を待つことが一般的です。ただし、症状だけで精巣捻転と区別することは困難です。
精巣上体炎
精巣のそばにある精巣上体に炎症が起こる病気です。陰嚢の痛みや腫れに加えて、発熱、排尿時の痛み、頻尿などを伴うことがあります。
小児では必ずしも細菌が原因とは限らず、尿検査などを行い、原因に応じて治療します。
外傷
スポーツ中の衝突、転倒、自転車のサドルへの打撲などで、陰嚢や精巣が傷つくことがあります。
強い衝撃では精巣の損傷や血腫を生じる可能性があります。また、「ぶつけたから痛い」と思っていても、精巣捻転が起きていることがあるため注意が必要です。
鼠径ヘルニア嵌頓
腸の一部が足の付け根から陰嚢側へ入り込み、戻らなくなった状態です。足の付け根や陰嚢の膨らみ、強い痛み、嘔吐などがみられ、緊急処置が必要になることがあります。
IgA血管炎や精巣炎など
IgA血管炎では、足の紫斑、腹痛、関節痛などとともに陰嚢が腫れることがあります。
流行性耳下腺炎、いわゆる「おたふくかぜ」では、特に思春期以降の男の子で精巣炎を起こすことがあります。
👉 陰嚢の痛みにはさまざまな原因がありますが、症状だけで精巣捻転を除外することはできません。

病院ではどのような検査・治療をする?
病院では、症状が始まった時刻や経過を確認し、陰嚢や精巣の位置、腫れ、痛みなどを診察します。必要に応じて、尿検査、血液検査、超音波検査を行います。
超音波検査では、精巣への血流などを調べます。ただし、不完全にねじれている場合や、一時的にねじれが戻った場合には、血流が確認できることがあります。
そのため、超音波検査で血流がみられたという理由だけで、精巣捻転を完全に否定できるとは限りません。症状や診察所見を含めて総合的に判断します。
精巣捻転を否定できない場合は、緊急手術で精巣の状態を確認します。ねじれを戻して血流の回復を確認し、再びねじれないよう精巣を陰嚢内に固定します。反対側の精巣も将来ねじれる可能性があるため、同時に固定することがあります。
残念ながら血流が戻らず、精巣を残せない場合には摘出が必要となることもあります。
医師が手でねじれを戻す処置を行う場合もありますが、これはあくまで医療者が行う一時的な処置です。ねじれが完全に解除されたかを確認し、再発を防ぐため、通常はその後の手術が必要です。
👉 超音波検査は有用ですが、精巣捻転が強く疑われる場合には、検査結果だけでなく症状や診察所見を含めた迅速な判断が必要です。
家庭での対応と受診先
陰嚢の急な痛みや腫れがあるときは、次のように対応してください。
1.症状が始まった時刻を確認する
「何時ごろから痛いのか」「突然始まったのか」「一度治まったことがあるか」を確認し、受診先で伝えましょう。
ただし、詳しく聞き出そうとして受診を遅らせる必要はありません。正確な時刻が分からない場合は、「夕食後から」「寝ている途中から」など、おおよその時間で構いません。
2.押したり揉んだりしない
陰嚢を強く押す、揉む、自分でねじれを戻そうとする、といったことは避けてください。
冷やす、温めるなどの応急処置だけで様子を見ないでください。鎮痛薬で痛みが軽くなっても、精巣捻転は否定できないため受診が必要です。
3.夜間でも対応可能な病院へ相談する
泌尿器科または小児外科に対応できる救急病院へ相談してください。
近くに対応可能な医療機関が分からない場合は、地域の救急相談窓口や消防へ連絡しましょう。痛みが強く動けない、顔色が悪い、嘔吐を繰り返すなど、家庭での搬送が難しい場合は救急車を検討してください。
4.痛みが治まっても受診する
痛みが自然に軽くなっても、間欠性精巣捻転の可能性があります。「治ったから大丈夫」と受診を中止しないでください。
また、思春期の子どもは恥ずかしさから、陰嚢の痛みを隠すことがあります。普段から、次のように伝えておくことも大切です。
「急にたまが痛くなったら、恥ずかしがらずにすぐ教えてね。夜中でも大丈夫だよ」
陰嚢の痛みは、本人が悪いことをしたために起こるものではありません。痛みを伝えてくれたときは叱らず、「すぐに教えてくれてよかった」と声をかけてください。
👉 陰嚢の急な痛みや腫れでは、家庭で様子を見ず、発症時刻を確認して夜間でも受診しましょう。

まとめ
子どもの陰嚢に急な痛みや腫れが起こる「急性陰嚢症」には、緊急手術が必要な精巣捻転が含まれます。
- 精巣捻転では、発症から6~8時間以内の治療が特に重要です
- 時間が経過していても、諦めずにすぐ受診してください
- 下腹部痛や嘔吐だけが目立つ場合もあります
- 発症直後は、腫れや赤みが目立たないことがあります
- 痛みが自然に治まっても安心できません
- 精巣付属器捻転や精巣上体炎などとの区別は、家庭では困難です
- 陰嚢を押す、揉む、自分でねじれを戻す行為は避けてください
- 夜間や休日でも、泌尿器科または小児外科に対応できる病院へ相談しましょう
- 普段から「痛くなったらすぐに教えて」と伝えておきましょう
👉 「少し様子を見よう」と迷った時間が治療に影響することがあります。子どもの陰嚢が急に痛い、腫れたときは、時間帯にかかわらず直ちに受診してください。

