海・川・プールで子どもを守る!ー水難事故の予防と正しい初期対応を小児科専門医が解説

海・川・プールで子どもを守る!ー水難事故の予防と正しい初期対応を小児科専門医が解説

はじめに

夏になると、海や川、プールなどで子どもが水遊びをする機会が増えます。

一方で、

「浮き輪をつけていれば大丈夫?」
「泳げる子なら少しくらい目を離しても平気?」
「子どもが溺れたら、まず水を吐かせるの?」
「助けたあと元気なら受診しなくてもいい?」

と疑問に思う親御さんも多いのではないでしょうか。

子どもの水難事故は、深い海や流れの速い川だけでなく、プールや乳幼児の入浴中にも起こります。そして、子どもは大声で助けを求めず、静かに溺れることがあります。

この記事では、水難事故を防ぐための見守り方、ライフジャケットの考え方、安全な救助方法、救出後の正しい初期対応について、小児科専門医がわかりやすく解説します。

子どもは静かに、水深5cmでも溺れることがあります

溺れている子どもは、「助けて!」と叫びながら激しく手を振ると思われがちです。

しかし、自宅の浴槽で子どもが溺れかけた経験を調べた調査では、

  • 86%以上が、悲鳴や助けを求める声を出していなかった
  • 約34%は、水しぶきなどの音も立てていなかった

と報告されています。

溺れているときは、呼吸することに精いっぱいで、声を出す余裕がありません。

次のような様子は、溺れているサインかもしれません。

  • 水面から口を出そうとして浮き沈みしている
  • 頭を後ろに反らしている
  • はしごを登るように水中で手を動かしている
  • その場からほとんど移動できていない
  • 声をかけても返事がない
  • 水遊びをしていた子どもが急に静かになった

さらに、乳幼児はわずか5cm程度の水でも溺れる可能性があります。

乳幼児は頭が大きく、首や腕の力も十分ではありません。前向きに倒れて口と鼻が水に覆われると、自分の力だけでは顔を水面から出せないことがあります。

大人には「足首にも届かない浅い水」でも、乳幼児には命に関わる深さになり得るのです。

また、自然水域での事故では、約7割が大人と一緒にいるときに起きていたという報告もあります。

複数の大人がいると、「誰かが見ている」と思い込み、実際には誰も見ていない時間が生まれることがあります。

水遊びを始める前に監視する大人を決め、乳幼児や泳げない子どもは、手を伸ばせばすぐに触れられる距離で見守りましょう。

監視中はスマートフォン、家事、飲酒を避け、その場を離れるときは短時間でも子どもを一緒に水から出してください。

👉 子どもは声を出さず、水深5cmでも溺れる可能性があります。「浅い」「大人が多い」を安全の根拠にしないでください。



水難事故を防ぐために大切なこと

① 海や川ではライフジャケットを着用する

一般的な浮き輪、アームリング、首浮き輪、足入れ浮き輪は遊具であり、命を守るための救命具ではありません。

浮き輪は体から抜けたり、波や風で流されたり、ひっくり返って自力で戻れなくなったりすることがあります。

海や川では、子どもの体重や胸囲に合ったライフジャケットを着用しましょう。

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  • ベルトを締めたときに簡単に抜けない
  • 股ベルトがある場合は必ず使用する
  • 破れや劣化がない
  • 水へ入る前に正しく装着する

ことを確認してください。

ライフジャケットを着ていても、目を離してよいわけではありません。子どもを助ける可能性がある付き添いの大人も、自然水域では着用しましょう。

② 海では遊泳区域を守る

監視員やライフセーバーがいる遊泳区域を選び、遊泳禁止区域や防波堤では遊ばせないでください。

波が高い日や天候が悪い日は、水へ入ること自体を中止しましょう。

海には、岸から沖へ向かう強い流れである「離岸流」が発生することがあります。流されたときは、流れへ逆らって岸を目指し続けるのではなく、ライフジャケットで浮いて呼吸を確保し、周囲へ助けを求めることが大切です。

③ 川では上流の天気も確認する

遊んでいる場所が晴れていても、上流の雨によって急に増水することがあります。

水が濁る、水位が上がる、流木や落ち葉が増える、雷が聞こえるといった変化があれば、すぐに川から離れてください。

流されたサンダルやボールを取りに行って事故になることもあります。遊ぶ前に、**「物が流されても取りに行かない」**と子どもと約束しておきましょう。

④ プールやお風呂でも目を離さない

監視員がいるプールでも、保護者による見守りは必要です。乳幼児は腕が届く距離で見守り、泳げる子どもでも一人にしないでください。

自宅のビニールプールは使用後に水を抜き、子どもだけで近づけないよう片づけます。

乳幼児の入浴中も、親が髪を洗う短い時間や、きょうだいの世話をしている間に事故が起こる可能性があります。入浴後は浴槽の水を抜き、子どもだけで浴室へ入れない対策をしましょう。

首浮き輪や足入れ浮き輪を安全装置として使用してはいけません。

👉 浮き輪ではなくライフジャケットを使い、場所にかかわらず大人が継続して見守りましょう。



溺れている子どもを見つけても、すぐに飛び込まない

子どもを助けたい一心で、すぐに水へ飛び込みたくなるかもしれません。

しかし、救助しようとした保護者やきょうだいが溺れる二次災害も起きています。特に、流れのある川や波のある海へ、救助技術のない人が飛び込むのは非常に危険です。

溺れている子どもを見つけたら、

  1. 大声で周囲に助けを求める
  2. 119番通報とAEDの手配を依頼する
  3. 監視員やライフセーバーを呼ぶ
  4. 自分は飛び込まず、浮く物を投げる

という順番で対応します。

人が多い場所では、

「青い服の方、119番してください」
「そちらの方、AEDを持ってきてください」

と、相手を具体的に指名しましょう。

救命用の浮き輪や、ふたを閉めた空のペットボトル、クーラーボックスなど、浮く物を投げます。

ロープや長い棒を差し出す場合は、救助する側が引き込まれないよう、低い姿勢を取り、自分の安全を確保してください。

👉 まず周囲へ助けを求めて119番通報し、自分は飛び込まず、浮く物を投げましょう。



救出後の正しい初期対応

安全な場所へ救出したら、平らな場所に寝かせ、肩を軽くたたきながら呼びかけます。

続いて、胸やお腹の動きを見て、普段どおりの呼吸があるかを10秒以内で確認します。

しゃくり上げるような不規則な呼吸は、正常な呼吸とは判断しません。

反応がなく、普段どおりの呼吸もない場合

すぐに119番通報し、AEDを手配して、心肺蘇生を開始します。

一人の場合は、通報したスマートフォンをスピーカーに切り替え、通信指令員の指示を聞きながら対応してください。

胸の中央を、1分間に100~120回の速さで、胸の厚さのおよそ3分の1が沈む強さで圧迫します。

  • 乳児:胸の中央を指2本で圧迫する
  • 幼児・小児:体格に合わせて片手または両手で圧迫する

人工呼吸の技術があり、行う意思がある場合は、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰り返します。

子どもの心停止は、溺水など呼吸の問題から起こることが多いため、人工呼吸を組み合わせることが望ましいとされています。

人工呼吸ができない場合も、何もしないのではなく、胸骨圧迫を続けてください。

AEDが届いたら電源を入れ、音声案内に従います。体が濡れている場合は、電極パッドを貼る部分の水分を拭き取ってください。

反応はないが、普段どおりの呼吸がある場合

呼吸があっても反応がなければ、すぐに119番通報します。

飛び込み事故などで首や頭を強く打った可能性がなければ、吐いたものを吸い込まないよう、体を横向きに寝かせます。

首や頭のけがが疑われる場合は、むやみに体を動かさず、通信指令員の指示に従ってください。

救急隊が到着するまで呼吸を繰り返し確認し、呼吸が止まった場合は心肺蘇生を始めます。

⚠ 水を吐かせようとしない

救出した子どもを、

  • 逆さにする
  • お腹を強く押す
  • 背中をたたいて水を吐かせる
  • ハイムリック法を行う

必要はありません。

水を出そうとすると、心肺蘇生の開始が遅れ、吐いたものを吸い込む可能性もあります。

水を吐かせることより、呼吸と血液の流れを取り戻すことが優先です。

救出後は濡れた衣服を可能な範囲で脱がせ、乾いたタオルや毛布で保温します。ただし、心肺蘇生が必要な場合は、着替えよりも心肺蘇生を優先してください。

👉 反応と呼吸を確認し、呼吸がなければ水を吐かせず、すぐに心肺蘇生を開始しましょう。



救出後に受診・救急要請する目安

遊んでいるときに一瞬顔へ水がかかった、少量の水を飲んだだけで、その後も普段どおり元気にしている場合まで、すべて受診が必要というわけではありません。

ただし、次の場合は、その後元気に見えても119番通報してください。

  • 一時的でも意識を失った
  • 普段どおりの呼吸がなかった
  • 心肺蘇生を行った
  • 顔色や唇の色が悪い
  • 呼吸が明らかに苦しそう
  • 反応が普段と違う

また、水没したあとに次の症状がある場合は、速やかに医療機関へ相談してください。

  • 咳が続く
  • 呼吸が速い
  • 胸やみぞおちがペコペコへこむ
  • ゼーゼー、ゴロゴロした呼吸音がある
  • 何度も吐く
  • ぐったりしている
  • 眠り方がいつもと違う

最初は軽症に見えても、時間がたってから呼吸状態が悪化することがあります。症状があった場合は、いったん改善しても自己判断だけで様子を見ないようにしましょう。

なお、インターネットで見かける「乾性溺水」「二次溺水」は定義が曖昧なため、現在は使用が推奨されていない言葉です。

水遊びから数日後、何の症状もなかった子どもが突然溺水状態になると、過度に心配する必要はありません。大切なのは、水没後から咳、呼吸の異常、嘔吐、ぐったりなどがないかを確認することです。

👉 意識や呼吸に異常があれば119番、水没後に咳・嘔吐・ぐったりがあれば医療機関へ相談しましょう。

まとめ

子どもの水難事故を防ぐためには、「泳げるかどうか」よりも、大人の監視と環境づくりが重要です。

  • 子どもは声や水しぶきを出さず、静かに溺れることがある
  • 乳幼児は水深5cm程度でも溺れる可能性がある
  • 大人と一緒にいても水難事故は起こる
  • 監視する大人を明確に決める
  • 乳幼児や泳げない子どもは、腕が届く距離で見守る
  • 海や川では体格に合ったライフジャケットを着用する
  • 浮き輪をライフジャケットの代わりにしない
  • 流された物を子どもに取りに行かせない
  • 溺れている人を見つけても、むやみに水へ飛び込まない
  • 救出後は反応と普段どおりの呼吸を確認する
  • 呼吸がなければ、水を吐かせず心肺蘇生を始める
  • 119番通報後はスピーカーにして指示を受ける
  • 救出後に意識や呼吸の異常があれば、元気に見えても救急要請する

水難事故は、ほんの短い時間に起こります。

「浅いから大丈夫」「大人が何人もいるから大丈夫」「浮き輪をつけているから大丈夫」という思い込みをなくし、遊び始める前に家族でルールを確認しておきましょう。

👉 「静かに溺れる」「5cmの水でも危険」「浮き輪だけでは守れない」「助ける側も飛び込まない」を家族で共有しておきましょう。