目次
はじめに
前回までは、小児喘息の特徴や診断の見極め方についてお話ししました。
今回は、実際に「発作が起きたとき」にどう対応すればいいのか――
つまり、急性期(発作時)の治療と受診の目安を、小児科専門医の視点でわかりやすく解説します。
「夜中に急にゼーゼーが始まった」「息が苦しそうで眠れない」
そんなとき、どう行動するかでその後の経過が大きく変わります。
発作かどうかは「発作中に診ないと分からない」
喘息の発作かどうかは、実際に発作が起きている最中でないと判断が難しいことがあります。
翌朝に受診したときには、すでに喘鳴(ゼーゼー音)が消えてしまっていることも少なくありません。
診察時に症状が落ち着いていると、「風邪かもしれませんね」と言われてしまうことも。
だからこそ、
- 発作時用の吸入薬や貼り薬が手元にない
- 苦しそうにしているのに呼吸が落ち着かない
といった場合は、夜間でもためらわず受診することが大切です。
👉 「今は軽そう」でも、発作は時間とともに悪化することがあります。
発作時の家庭での対応
🔹 1. 座らせて呼吸を楽にする
仰向けに寝かせると肺が押されて苦しくなります。
背中を支えて座らせ、上体を少し前かがみに。抱っこしながらでもOKです。
👉 “座って呼吸”が第一歩。無理に寝かせないようにしましょう。
🔹 2. 指示された薬があればすぐ使用
発作時には、**気管支を広げる薬(リリーバー)**を使います。
例:サルタノール®、メプチン®など。
- 吸入して10〜20分で改善するか確認
- 効果がなければ、医師の指示に従って追加吸入
- 吸入が難しい場合は、貼り薬(気管支拡張薬)を早めに貼付
また、医師からステロイド内服薬を頓用で処方されている場合は、
炎症を抑える目的で早めに服用します。
👉 薬は「早め・適量・正しく」使うのが大切です。
1回使っても改善しないときは「すぐ受診」
リリーバーやステロイドを使っても、
- 呼吸が速い
- 苦しさが強い
- 顔色が悪い
といった状態が続く場合は、粘らず早めに受診しましょう。
発作は見た目が軽くても、炎症が進むと一気に悪化します。
夜間でも受診が必要なサイン
- 呼吸が浅く、胸やお腹がへこむ(陥没呼吸)
- 会話が途切れるほど苦しい
- 唇が紫色(チアノーゼ)
- 顔色が青白い、ぐったりしている
- 吸入しても変化がない
これらは中等症〜重症発作のサインです。
夜間でもためらわず救急外来を受診してください。
👉 喘息発作は“命に関わる”こともあります。
ガイドラインでも、重症発作による死亡例が報告されており、
「もう少し様子を見よう」という判断が命取りになることがあります。
病院での治療
🔸 吸入(β₂刺激薬)
まずは気道を広げる吸入治療を行います。
家庭での吸入よりも濃度の高い薬を使用し、繰り返し吸入を行います。
それでも改善がなければ、**持続吸入(連続的ネブライザー治療)**に切り替えます。
👉 単回吸入で効果が乏しい場合は、複数回or持続吸入が標準治療です。
🔸 ステロイド薬の内服・点滴
吸入だけで改善しない場合、炎症を抑えるステロイド薬を投与します。
内服または点滴で投与し、発作の長引きを防ぎます。
短期間の使用であれば副作用はほとんどなく、
気道のむくみを鎮めて呼吸を楽にする“根本治療”です。
🔸 酸素投与・気管挿管
呼吸が浅く、血中酸素が下がっている場合は酸素吸入を行います。
それでも十分な酸素が取り込めないときは、
気管挿管による人工呼吸管理を行うこともあります。
👉 命を守るための処置。怖がらず、医療に任せましょう。
持続吸入や点滴、酸素投与が必要な場合は入院
こうした治療を行うレベルの発作は、
すでに「中等症以上」の状態と判断されます。
病院では、発作の経過を見ながら数日間の入院管理が行われることが一般的です。
平均的な入院期間は 3日〜1週間程度。
吸入の間隔を延ばしながら徐々に安定させ、
夜間の呼吸も落ち着いてきた段階で退院となります。
👉 入院は“さらなる重症化を防ぐための安全なステップ”。安心して治療を受けてください。
発作が落ち着いた後も油断しない
吸入で落ち着いても、気道の炎症はしばらく残ります。
炎症が治りきらないうちに風邪やアレルゲン刺激が加わると、再発しやすくなります。
- 指示された薬は途中でやめない
- 登校・登園の再開は医師に確認
- 発作のきっかけ(ダニ・冷気・疲労など)を見直す
👉 “発作のあとの対策”が、次の発作を防ぐ勝負どころです。
親御さんへのメッセージ
喘息発作は、早めに対応すれば落ち着かせることができる病気です。
でも、「もう少し様子を見よう」「朝まで待とう」というわずかな遅れが、
重症化につながることもあります。
家族で、
- 発作時の吸入薬の使い方
- 夜間・休日に受診できる医療機関
- 吸入器や薬の保管場所
を確認しておきましょう。
👉 “落ち着いて、早めに、ためらわず”が命を守る対応です。
まとめ
- 発かどうかは発作中の診察でしか判断できない事がある。
- 吸入・貼り薬がないときは夜間でも受診をためらわない
- 1回の吸入で改善しなければ早めの再吸入・受診を
- 持続吸入・点滴・酸素投与が必要な場合は入院(3日〜1週間)
- 重症発作では命に関わる例も報告。初期対応が何より大切
👉 正しい知識と早めの対応が、お子さんの呼吸を守ります。

