目次
はじめに
これまでの記事では、
- 小児喘息は正しく治療すれば“治る病気”であること🔗過去の記事はこちら
- 診断が難しく、小児科専門医でも頭を悩ますことがあること🔗過去の記事はこちら
- 発作が起きたときの正しい対応🔗過去の記事はこちら
についてお話ししてきました。
今回のテーマは、喘息治療の本丸ともいえる
「発作を起こさないための毎日の治療=コントローラー治療」 です。
👉 発作が出てから対処するより、“発作を起こさせない”ことが何より大切です。
✅ コントローラー治療とは?
喘息は「気道の炎症」が本体の病気です。
症状がないときも、実は気道の内側が“傷だらけ”になっており、
ホコリ・花粉・風邪・運動・冷気など、ほんの少しの刺激にも反応しやすい状態です。
この炎症を静かに鎮め、
発作を起こしにくい身体へ整えていくのがコントローラー治療。
👉 症状がない時期こそ、治療が一番効く“ゴールデンタイム”。
✅ 小児の治療ステップ
① まずは飲み薬の LTRA(ロイコトリエン受容体拮抗薬)
のみ薬は吸入がまだ難しい乳幼児にも使いやすく、
アレルギー体質が背景にある喘息に相性の良い治療です。
代表薬:
- シングレア®
- キプレス®(モンテルカスト)
特に、
- 夜や明け方の咳が多い
- ダニ・ハウスダストアレルギーがある
といったタイプに向いています。
👉 「まずは飲み薬で炎症を落ち着かせる」という最初のステップ。
② 改善しなければ吸入ステロイド(ICS)へステップアップ
LTRAだけで十分に落ち着かない場合は、
吸入ステロイド(ICS) を追加または置き換えます。
ICS は 気道の炎症を最も強力に抑える薬 で、
長年の治療で効果がしっかり証明されています。
代表薬:
- フルタイド®(フルチカゾン)
- パルミコート®(ブデソニド)
- キュバール®(ベクロメタゾン)
- アズマネックス®(モメタゾン)
ICSを続けることで、
- 発作が劇的に減る
- 夜間・明け方の咳が消える
- 風邪をひいても悪化しにくくなる
- 学校や保育園を休みにくくなる
といった効果が期待できます。
👉 “吸入ステロイド=こわい薬”は誤解。局所に作用し、全身への影響は非常に少ない薬です。
③ 咳が残る場合:ICS+LABA(配合薬)へ
ICSを使っても咳が残る場合は、
ICS+LABA(長時間作用型 β₂刺激薬)の配合薬 を使います。
LABAには 気道を広げる 効果があり、また効果が長く続くため、
息苦しさ・運動時のゼーゼーにも強い治療です。
代表薬:
- アドエア®(フルチカゾン+サルメテロール)
- シムビコート®(ブデソニド+ホルモテロール)
- レルベア®(フルチカゾン+ビランテロール)
👉 炎症を抑えながら、気道も広げる“Wの効果”。
✅ よくある疑問
❓ 発作がないから薬をやめてもいい?
✅ 症状ゼロでも炎症は続いていることが多いため、自己判断で中止はNG。
炎症が残ったままだと、
- 夜や明け方の咳がぶり返す
- 風邪のたびに悪化する
- 発作が起きやすい体質に戻ってしまう
さらに、発作をくり返すほど
気道の壁が厚くなって硬くなる(リモデリング) が進み、
大人になっても症状が残る原因になります。
👉 症状がない時期こそ、治療が最も効く大事な期間。
❓ 吸入ステロイド(ICS)は成長に影響する?
✅ 通常量では成長への影響はごくわずか。安全性はとても高い治療です。
- 気道に局所的に作用
- 全身にまわる量はごく少ない
- 長期的な最終身長に差が出ることはほぼない
反対に、喘息が不十分な状態が続くと、
- 睡眠が妨げられる
- 運動不足
- 低酸素
などで成長に悪影響が出ることがあります。
👉 治療をしっかり続ける方が、むしろ成長に良い。
❓ 吸入が上手にできているか心配…
✅ 吸入には少し練習が必要。やればやるほどどんどん上手になります。
- スペーサーを使う
- 深呼吸をゆっくり5〜10回
- 乳幼児は「泣き吸い」でも一定量は吸えている
👉 診察ごとに吸入のやり方をチェックすると安心。
❓ 薬を忘れた日は?
✅ 気づいたときに使えばOK。2回分使うのはNG。
忘れた日があっても焦らなくて大丈夫。
ただし、続けて忘れると効果が落ちるため、
- 歯磨きのあと
- 朝ごはんの前
- キッチンに吸入を置く
など、生活の流れの中に組み込むと続けやすくなります。
❓ 運動はしても大丈夫?
✅ コントロールされていれば問題なし。むしろ運動は推奨です。
肺も体力も鍛えられ、喘息の予後にも良い影響があります。
✅ リモデリングを防ぐために
発作をくり返して炎症が続くと、
気道の壁が厚く・硬くなり(リモデリング)、
この変化は大人になっても咳や息苦しさの原因になります。
でも、
治療を続けて炎症をしっかり抑えれば、気道は本来の状態に戻りやすくなります。
✅ まとめ
- 小児喘息は「発作を起こさせない治療」が最も大切
- まずは LTRA、次に ICS、必要なら ICS+LABA へ
- 症状がなくても炎症は残るため毎日の継続が重要
- 吸入ステロイドは安全性が高く、成長への影響は最小限
- 発作をくり返すとリモデリングが進むため、治療継続が未来を守る
👉 “症状がない日こそ継続”が、将来の呼吸を守る一番の近道。

