熱と喉の痛み、それって“ただの風邪”?― 小児科専門医が解説する『溶連菌感染症』

熱と喉の痛み、それって“ただの風邪”?― 小児科専門医が解説する『溶連菌感染症』

はじめに

子どもが発熱して「喉が赤いですね」と言われること、よくありますよね。
多くはウイルスによる風邪ですが、抗菌薬での治療が必要な例外が「溶連菌感染症(A群溶血性レンサ球菌感染症)」です。

発熱・喉の痛みに加え、舌のブツブツ(いちご舌)や発疹を伴うこともあります。
しっかり治療すれば数日で改善しますが、放置すると合併症を起こすことも。


溶連菌感染症とは

「溶連菌(ようれんきん)」とは、正式には A群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes) という細菌です。
主に 喉や皮膚 に感染し、子どもの咽頭炎やとびひの原因となります。

感染経路は 飛沫感染や接触感染。同じコップやタオルの共有でうつることもあります。
潜伏期間は2〜5日ほどで、保育園や学校で集団感染が起きやすい感染症です。

👉 喉の感染だけでなく、皮膚や肛門まわりに広がることもあります。


主な症状

  • 38〜39℃前後の発熱
  • 強い喉の痛み(飲み込むのもつらい)
  • 喉の強い赤み、白苔(白い膿)
  • 咳や鼻水が少ない
  • いちご舌(舌のブツブツ)
  • 紙やすりのような発疹(猩紅熱様発疹)

発疹が出た場合、数日で消え、その後に手足の皮がむけることもあります。

👉 「発熱+喉の痛み+いちご舌」は溶連菌を疑うサイン。


診断と検査

診断は 迅速抗原検査(喉を綿棒でぬぐう)で行われ、数分で結果がわかります。
ウイルス性の風邪と症状が似ていても、検査で区別できるのが特徴です。

ただし注意したいのは、元気な子どもの約1〜2割(12〜20%)は溶連菌を保菌しているという点。
そのため、**喉が赤くない・痛くない状況で検査を行うと、陽性でも“偽陽性”**となることがあります。

👉 検査のタイミングは大切。「喉の赤み・痛み・発熱」がそろっている時に行いましょう。


治療について

治療の基本は、ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリンなど)を10日間しっかり内服すること
症状が軽くても途中でやめると再発の原因になります。

抗菌薬を内服すると、
24時間以内に感染力はほとんどなくなります。
そのため、熱が下がり体調が良ければ 翌日から登園・登校可能 というのが一般的です。

👉 抗菌薬をしっかり飲めば、1日で他の人にうつすリスクはほぼゼロに。


家庭でのケア

  • 安静と水分補給:脱水を防ぎ、回復を促します。
  • 刺激の少ない食事:酸っぱい・しょっぱいものは避けて。
  • うがい・手洗い:再感染防止に有効。
  • 食器・タオルは共有しない:家族内感染を防ぎます。
  • 登園・登校の目安:抗菌薬を開始して24時間経過し、解熱していること。

👉 熱が下がっても、1日はしっかり休ませて。元気になっても油断せずに。


治ったあとに注意したいこと(尿検査のすすめ)

溶連菌感染症は、治療後にまれに**腎臓の炎症(急性糸球体腎炎)**を起こすことがあります。
これは感染後2〜3週間たってから症状が出ることがあり、むくみや血尿として見つかることも。

そのため、治癒後2〜3週間で尿検査を行う施設もありますが、実際には
「全員に検査を行うかどうかは施設によって対応が分かれる」のが現状です。

👉 元気になっても、2〜3週間後に尿検査を勧められたら忘れずに。
また、
おしっこの色が赤っぽい・茶色い、顔や足がむくむ、尿が少ないといった症状がある場合は、すぐに受診を。


合併症について

  • リウマチ熱(関節・心臓に炎症)
  • 溶連菌性毒素性ショック症候群(STSS)(まれだが重症)

これらは抗菌薬をきちんと服用すればほぼ防げるため、早期治療と内服継続が大切です。

👉 抗菌薬を“飲みきる”ことが合併症予防の第一歩。


まとめ

  • 溶連菌感染症は A群溶血性レンサ球菌による細菌感染症
  • 主な症状は 発熱・喉の痛み・いちご舌・発疹
  • 抗菌薬開始から24時間で感染力はほとんど消失
  • 元気な子の1〜2割は保菌しているため、検査タイミングが大切。
  • 尿検査フォローは施設によって異なるが、血尿やむくみがあればすぐ相談。

👉 「ただの風邪」と思っても、実は溶連菌かもしれません。
早めの検査としっかりした治療で、合併症を防ぎましょう。