授乳後にミルクを吐いてしまう――。
生まれたばかりの赤ちゃんでよく見られる光景ですが、初めての育児では「これって大丈夫?」と不安になりますよね。
実際、小児科外来でも「吐いたけれど元気なんです」と相談されることが多くあります。
結論から言えば、多くの新生児の嘔吐は“生理的なもの”であり、病気ではありません。
しかし中には、早期に気づくべき“危険なサイン”が隠れていることもあります。
今回は、小児科専門医の立場から、
- 新生児が吐く理由
- 安心してよいケース
- 注意が必要なケース
について丁寧に解説します。
目次
新生児はなぜ吐きやすいの?
生まれたばかりの赤ちゃんの胃は、まだ縦に細長い形をしており、胃の入り口(食道との境目)を締める筋肉が未発達です。
このため、ちょっとした体勢の変化やお腹の張りでも、簡単にミルクが逆流してしまいます。
また、哺乳の際に空気を一緒に飲み込みやすく、胃の中の圧力が上がることも“吐き戻し”を助長します。
このような嘔吐は病気ではなく、体の成長過程にともなう自然な現象です。
👉 生理的な現象なので、児の成長とともに頻度は減っていきます。
吐いても元気なら、基本的に心配いりません
以下のようなケースでは、ほとんどが問題のない「生理的な吐き戻し」です。
- 授乳直後に口の端から少量のミルクを吐く
- 吐いたあとも機嫌が良く、再び飲みたがる
- お腹がやわらかく、張りがない
- 体重がしっかり増えている
多くの場合、便秘や飲みすぎ が背景にあります。
便が出にくいとお腹の中にガスが溜まり、胃が圧迫されて逆流しやすくなるのです。
また、哺乳量が多すぎると胃がパンパンに膨らみ、吐きやすくなります。
家庭でできる工夫としては:
- 授乳後にしっかりゲップを出す
- 授乳後10〜15分は縦抱きで落ち着かせる
- 一度に多く飲ませすぎない
こうした工夫で改善することが多いです。
👉 体重が増えていて、元気に飲んでいればまず安心。焦って受診する必要はありません。
注意が必要なサイン
ただし、次のような嘔吐が見られる場合は、小児科専門医による診察が必要です。
🩺 吐いたものが「緑色」「茶色」
これは**胆汁(たんじゅう)**が混じっているサインで、腸の閉塞(腸閉鎖・腸回転異常など)を示すことがあります。
生後すぐの緑色の嘔吐は、緊急性が高く、直ちに医療機関を受診する必要があります。
🩺 噴水のように勢いよく吐く
生後2〜3週以降に「噴水のような嘔吐」が見られる場合、肥厚性幽門狭窄症という病気の可能性があります。
ミルクを飲む元気はあるのに、飲むたびに勢いよく吐くのが特徴です。
🩺 吐いたあとにぐったりする・元気がない
体の水分が失われたり、代謝異常などの全身的な病気が隠れていることもあります。
🩺 吐物に血が混じる
母乳の場合、乳首からの出血(乳頭亀裂)によることもありますが、胃や食道からの出血のこともあるため注意が必要です。
🩺 発熱・体重減少・お腹の異常な張りを伴う
これらの症状がある場合は、消化管の通過障害や感染症の可能性があり、検査が必要になります。
👉 「吐く勢い」「色」「全身の元気さ」――この3点を観察することが、危険なサインを見逃さないコツです。
便秘との関係 ― “お腹の圧”が原因のことも
意外に見落とされがちなのが、「便秘による嘔吐」です。
赤ちゃんは腸の動きが未熟なため、ガスや便がたまりやすく、それが胃を押し上げることで吐いてしまうことがあります。
この場合は排便がうまくいくと嘔吐も改善することが多いです。
便秘のサインとしては、
- お腹が張っている
- うんちが3日以上出ていない
- 息む時間が長い、機嫌が悪い
などが挙げられます。
ミルクの種類や量、体質によっても変わりますが、お腹がやわらかく体重が増えていれば問題ないことがほとんどです。
まとめ
新生児の嘔吐は見た目の印象が強く、親御さんが不安になる症状ですが、
**多くは便秘や飲みすぎなどの“生理的な吐き戻し”**です。
一方で、
- 緑色や茶色の吐物
- 噴水のような嘔吐
- 吐いたあとぐったりする
といった場合は、命に関わる病気のサインかもしれません。
少しでも「いつもと違う」と感じたら、自己判断せず早めに医療機関を受診してください。
👉 「吐いた=病気」とは限りません。大切なのは、“吐いたあとどうか”を見ること。
赤ちゃんの元気と体重の増え方を見守りながら、安心して育児を続けてください。

