子どもとの関わり方「これで大丈夫?」と感じたときに― 小児期逆境体験(ACEs)について小児科専門医が解説

子どもとの関わり方「これで大丈夫?」と感じたときに― 小児期逆境体験(ACEs)について小児科専門医が解説

はじめに

子育てをしていると、
ふとした瞬間にこんな気持ちが湧いてくることはありませんか。

  • さっきは強く叱りすぎたかもしれない
  • 忙しくて、ちゃんと話を聞いてあげられなかった
  • この関わり方で、この子は本当に大丈夫だろうか

多くの親御さんが、一度は感じたことのある不安だと思います。

そんなときに知っておいてほしい考え方が、
**小児期逆境体験(ACEs:Adverse Childhood Experiences)**です。

これは、 「親を責めるための概念」ではなく「子どもを守る視点を増やすための考え方」です。

この記事では、ACEsについて、親御さん向けにできるだけわかりやすく解説します。


小児期逆境体験(ACEs)とは?

ACEsとは、
18歳未満の時期に経験する、強いストレスやトラウマになりうる体験のことを指します。

ここで大切なのは、
すべての「つらい経験」がACEsになるわけではない
という点です。

失敗すること、叱られること、我慢すること。
それらは成長に必要な経験でもあります。

ACEsが問題になるのは、

  • 安心できる大人がいない
  • 守られている感覚を持てない
  • 常に不安や緊張の中で過ごしている

そんな状態が日常的・慢性的に続くことです。


どんな体験がACEsに含まれるの?

ACEsの研究では、代表的な体験を10項目に整理しています。

① 虐待に関する体験

  • 心理的虐待(怒鳴られる、否定され続ける など)
  • 身体的虐待
  • 性的虐待

② 家庭環境に関する体験

  • 家庭内暴力(DV)
  • 家族のアルコール・薬物依存
  • 家族の精神疾患
  • 親の離婚・別居
  • 家族の誰かが収監されている

③ ネグレクト(養育放棄)

  • 情緒的ネグレクト(気持ちを受け止めてもらえない)
  • 身体的ネグレクト(衣食住や医療が十分でない)

👉 **これらをいくつ経験したかを合計したものが「ACEsスコア」**です。


ACEsが将来に影響すると言われる理由

多くの研究で、
ACEsの数が多いほど、将来の心身の問題が増えやすい
ことが示されています。

たとえば、

  • うつ病や不安障害
  • アルコール・薬物依存
  • 心疾患や糖尿病などの生活習慣病
  • 学業や対人関係でのつまずき
  • 社会への適応の難しさ

こうした問題との関連が報告されています。

👉 これは「性格」や「努力不足」の問題ではありません。


子どもの体は「生き延びるため」に変化する

強いストレス環境に置かれた子どもは、
生き延びるために、体と脳を適応させます。

ストレスがかかると、

  • ストレスホルモン(コルチゾール)が分泌され
  • 常に「危険に備えるモード」になります

短期間であれば、これは命を守るために必要な反応です。

しかし、

  • その状態が長く続く
  • 安心して休める場所がない

という状況では、

  • 感情のコントロールが難しくなる
  • 集中力や記憶に影響が出る
  • 体の炎症が慢性的に高まりやすくなる

といった変化が起こります。

👉 「困った行動」は、体が覚えてしまった反応であることも少なくありません。


見るべきは「出来事」ではなく「環境」

ACEsを考えるうえで大切なのは、
一つ一つの出来事を切り取って責めないことです。

・親の心身の余裕
・経済的な状況
・家庭内の雰囲気
・困ったときに頼れる人がいるか

こうした環境全体が、子どもの発達に影響します。

👉 ACEsは「親のせい」を問う概念ではなく、社会全体で子どもを支える必要性を示す考え方です。


親として知っておきたい関わりの視点

― トラウマインフォームドケア ―

ACEsの理解をもとにした関わり方として、
トラウマインフォームドケアという考え方があります。

これは、
「この子は、どんな経験をしてきたのだろう?」
という視点で子どもを見ること。

大切にするのは、

  • 安全だと感じられること
  • 信頼できる大人がいること
  • 気持ちや選択を尊重されること

👉 それだけで、子どもの回復力(レジリエンス)は高まります。


「これで大丈夫?」と感じた親御さんへ

この記事を読んで、
「うちの子はACEsに当てはまらないだろうか」
「自分の関わりは足りているのだろうか」
と不安になった方もいるかもしれません。

でも、覚えておいてください。

子どもにとって必要なのは、完璧な親ではありません。

  • 安心して戻れる場所があること
  • 気持ちを聞いてくれる大人がいること

それだけで、子どもは何度でも立て直す力を持っています。

迷いながらでも、
「この子の味方でいたい」と思う気持ちそのものが、
子どもを守る力になります。


参考文献

Felitti VJ, et al.
Relationship of Childhood Abuse and Household Dysfunction to Many of the Leading Causes of Death in Adults.
American Journal of Preventive Medicine.