小児のインフルエンザ治療はどう選ぶ? ― 小児科専門医がわかりやすく解説

小児のインフルエンザ治療はどう選ぶ? ― 小児科専門医がわかりやすく解説

2025/10/03(金)

お子さんがインフルエンザにかかると、「どの薬を使えばいいの?」と迷う方は多いと思います。
日本では小児に使える抗インフルエンザ薬が複数ありますが、それぞれに特徴と注意点があります。
今回は、小児科専門医の立場と日々の診療経験から、私自身がどう考えながら薬を選択しているのか、親御さん向けにわかりやすく整理しました。


① 薬を使わないという選択肢

まず大前提として、抗インフルエンザ薬は必ず使わなければ治らない薬ではありません
多くのお子さんは、安静・水分補給・十分な休養で自然に回復していきます。

薬は「熱を早く下げる」「症状を軽くする」「合併症を減らす」目的で使われますが、軽症の場合にはあえて使わずに経過を見ることもあります。

👉 「薬がなくても治ることが多い病気です。医師と相談して、お子さんに合った方法を選びましょう。」


② インフルエンザ薬と「異常行動」について

インフルエンザの治療薬を飲んだあとに、**突然走り出す・高いところから飛び降りるなどの「異常行動」**が報告されることがあります。
ただしこれは薬だけが原因ではなく、現在はインフルエンザそのものによる脳への影響でも起こる事が知られており、インフルエンザの治療薬と異常行動と明確な因果関係があるとは言えません

厚生労働省は、

  • 特に10代では注意が必要
  • 投薬後2日間は子どもを一人にしない

ことを推奨しています。

👉 「薬のせいだけでなく病気自体でも起こることがあります。必ず見守ってあげてください。」


③ 各薬の特徴と注意点

タミフル®(オセルタミビル:内服)

  • 対象年齢:1歳以上
  • 投与方法:1日2回、5日間
  • 特徴:粉薬(ドライシロップ)があり、小さい子でも飲ませやすい
  • 注意点:味が苦手な子も。B型では効き目がやや弱いことも

👉 「小さい子にも安心して使える、まず考えたいお薬です。」


リレンザ®(ザナミビル:吸入)

  • 対象年齢:5歳以上
  • 投与方法:1日2回、5日間
  • 特徴:吸入により直接効果が期待できる
  • 注意点:吸入手技が必要。喘息の子は注意

👉 「吸入が上手にできる小学生以上に向いています。」


イナビル®(ラニナミビル:吸入1回)

  • 対象年齢:10歳未満20mg、10歳以上40mgを1回吸入
  • 特徴:1回で治療完結
  • 注意点:吸入に失敗すると再投与できない

👉 「便利ですが、低年齢では“きちんと吸えているか”に注意が必要です。」


ゾフルーザ®(バロキサビル:内服1回)

  • 対象年齢:6歳以上(体重によって量が変わります)
  • 投与方法:1回の内服で治療完了
  • 特徴:特にB型に効果が期待される
  • 注意点:飲んだ直後に吐いてしまうと再投与不可。耐性ウイルスの出現も報告あり

👉 「“1回で終わる便利さ”と“失敗リスク”を理解して使いましょう。」


ラピアクタ®(ペラミビル:点滴)

  • 対象年齢:生後1か月以上
  • 投与方法:点滴で1回(場合により複数回)
  • 特徴:飲めない、吸えないといった重症例に使える
  • 注意点:医療機関での点滴が必要

👉 「重症のときの“切り札”です。」


④ まとめ(比較表)

薬剤投与方法対象年齢メリット注意点
タミフル®内服(1日2回×5日)1歳以上粉薬あり、小児でも使いやすい飲みにくさ、B型はやや弱い
リレンザ®吸入(1日2回×5日)5歳以上気道に直接作用吸入手技必要、喘息注意
イナビル®吸入(1回のみ)10歳未満20mg、10歳以上40mg1回で治療完結吸入失敗で効果不十分
ゾフルーザ®内服(1回のみ)6歳以上1回で完結、B型に有効嘔吐で失敗リスク、耐性出現
ラピアクタ®点滴(1回〜)生後1か月以上内服・吸入できなくても可能入院や点滴が必要

小児科医からのメッセージ

  • 小さい子や咳・嘔吐が強い子にはタミフル®がおすすめ
  • 大きい子なら吸入薬やゾフルーザ®も選択肢
  • 1回投与薬は便利だが、失敗するとやり直せないリスクがある
  • どのお薬でも、投与後は必ずお子さんを見守ることが大切
  • そしてもう一つ大切なことは、薬を使わなくても自然に治ることが多い病気であること。症状や年齢、体調を見ながら医師と相談して方針を決めましょう。

👉 「“必ず薬を飲まなければ治らない”わけではありません。お子さんの状態に合わせた治療を一緒に選んでいきましょう。」