目次
はじめに
川崎病は、IVIG(免疫グロブリン)治療で多くの子が改善します。
しかし中には、IVIGが効かず熱が続く「難治例(IVIG不応例)」になることがあります。
とはいえ、心配しすぎる必要はありません。
追加治療の選択肢は複数あり、ほとんどのお子さんがしっかり回復します。
今回は、
「IVIGが効かない場合はどうするのか」
を、小児科専門医としてわかりやすく解説します。
👉 難治例でも治療の手段はあり、前向きに治療できます。
1.IVIGが効かない“IVIG不応例”とは?
一般的に、IVIGを投与した場合、
- 24〜48時間以内に熱が下がる
- 炎症値(CRPなど)が改善してくる
という経過をたどります。
しかし、
- 治療開始して2日以上たっても熱が続く
- 一度下がった熱が再び上がる
場合には、炎症が強く残っており
“IVIG不応例(難治例)” と判断されます。
● 不応になりやすい特徴は「不応スコア」で予測できる
川崎病には、“不応スコア(治療抵抗性スコア)” と呼ばれる
予測指標に対応する項目が示されています。
不応スコアとは、
・年齢・採血データ・病状の進み方
などを点数化し、
「最初のIVIGが効きにくいかどうか」 を予測するためのものです。
例として:
- CRPが高い(炎症が強い)
- AST/ALT(肝機能)が高い
- ナトリウムが低い
- 白血球が多い
- 年齢が低い(特に乳児)
などがあり、
これらを組み合わせて 効きにくさを予測 します。
● 予測スコアが高い場合は、最初から追加治療を行うことも
最近の治療方針では、
不応スコアが高い場合には 「最初か追加治療を併用する」 病院も増えています。
- 「効かなかったら追加する」ではなく
- 「効きにくそうだから最初から複数の治療で攻める」
という考え方です。
👉 これは“重症だから”ではなく、早い段階で治療効果を高めるための前向きな判断です。
2.IVIGが効かない時の追加治療
追加治療には複数の選択肢があり、
病院ごとに「どれを優先するか」が違うのも特徴です。
① ステロイド(パルス療法など)
最も広く使われる治療です。
- 強力な抗炎症作用
- IVIG後も熱が続く場合に追加
- 3日間集中的に行うパルス療法 も選択肢
また、前述のとおり
不応スコアが高い場合は最初からIVIGと併用する施設もある
これは冠動脈をより確実に守るための重要な戦略です。
② シクロスポリン(免疫抑制薬)
免疫細胞のスイッチを抑える薬で、
炎症の勢いが強いタイプに特に有効です。
- 内服や点滴で使用
- ステロイドに次ぐ追加治療として広く使われる
- 冠動脈リスクが高いと判断される場合は第一選択になることも
③ インフリキシマブ(抗TNF-α抗体)
炎症の中心物質「TNF-α」をブロックする抗体薬です。
- 1回の点滴で効果が出ることが多い
- 副作用が比較的少ない
- ステロイド・シクロスポリンと並び、有力な追加治療
④ 血漿交換(ごくまれに使用される最終手段)
ごく一部の重症な症例で必要とされている治療。
- 血液を入れ替えて炎症物質を直接除去
- 効果は高いが、負担も大きいため最終ラインで選択
👉 ごく少数の例でしか必要になりません。
3.親として知っておきたい“安心ポイント”
追加治療が必要と言われると不安になりますが、
ここが大切です。
① 追加治療が必要でも、ほとんどの子は良くなる
- IVIGが効かなくても治療法は複数
- どれも科学的根拠があり効果が期待できる
- 遅れずに治療すれば、冠動脈瘤のリスクは十分抑えられる
医療側も経験豊富な領域であり、対策が確立しています。
② 追加治療は“病院ごとに標準が違う”
理由:
- 使用可能な薬が施設で異なる
- 治療経験や専門性の違い
- ガイドラインでも複数の治療が同等の選択肢として認められている
そのため、
▶ 追加治療が必要になった段階で、専門病院へ転院することがある
これは悪いサインではなく、
治療の選択肢を最大化するための前向きな判断 です。
③ 川崎病は再発することがあるけど“まれ”
- 再発率は 約3%
- 再発しても治療は同じ
- 比較的予後は良好で、多くのお子さんが問題なく回復する
まとめ
- 川崎病の10〜20%は IVIG が効きにくい “IVIG不応例”
- 不応スコアで“効きにくさ”をある程度予測できる
- 追加治療にはステロイド・シクロスポリン・インフリキシマブなど複数の選択肢
- 追加治療は病院ごとにスタンダードが違う
- 必要に応じて専門病院へ転院することもある(選択肢を広げるため)
- 再発はまれ(約3%)で、予後は良好
👉 次回は「退院後のフォローアップ(外来での経過観察)」について解説します。

