前回の記事では、アトピー性皮膚炎に対して ステロイド外用薬がどのように働くのか、
そして 副作用を避けるために正しい使い方がどれほど重要か を詳しく解説しました。🔗前回の記事はこちら
ステロイドは炎症を短期間でしっかり抑えるための“主軸”ですが、
実は近年、小児でも使えるステロイド以外の外用薬が増えており、治療の選択肢は広がっています。
これらはステロイドとは違う仕組みで炎症を抑える薬で、
顔・首などのデリケートな部位、長期維持治療、ステロイドに不安がある家庭で大きな力を発揮します。
今回は、小児で使用される 主要なステロイド以外の外用薬4つ を
小児科専門医として分かりやすく解説します。
目次
なぜステロイド以外の薬が必要なの?
ステロイドは“炎症を抑える力が圧倒的に強い薬”ですが、
すべての場面で万能というわけではありません。
✅ ステロイドが使いにくい部位がある
- 顔・首・わき・陰部 → 吸収率が高く、副作用が出やすい
- 特に乳児の顔は皮膚が薄く“入りやすい”ため、長期は避けたい
✅ 長期維持治療には向かない
炎症が強い時期はステロイドで一気に抑える方が安全ですが、
その後の“再燃を防ぐ維持治療”は、
ステロイドを続けるより 非ステロイド薬の方が安全で合理的 です。
✅ 親御さんの不安にも寄り添える
「ステロイドを使いたくない」
「弱い薬で維持したい」
という家庭では、他の薬の存在が治療の安心材料になります。
👉 ステロイドで抑える → 非ステロイド薬で維持する は現場でよくある治療の流れ。
① タクロリムス(プロトピック)
顔・首のアトピーに欠かせない維持治療の中心
プロトピックは 免疫反応を調整して炎症を抑える薬 です。
ステロイドとは全く違う仕組みで働きます。
✅ 特徴
- 2歳以上から使用可
- 顔・首などの“ステロイドを使いにくい部分”に相性が良い
- 長期間使っても皮膚が薄くならない
✅ 注意点
- ピリピリする刺激感
炎症が残っている部分ほど刺激を感じやすいです。
数日で慣れることも多いですが、子どもが嫌がることはあります。
✅ こんな時に最適
- 顔・首の赤みが慢性的に続く
- ステロイドをできるだけ使いたくない
- 炎症が治った後の維持治療に
👉 顔のアトピー治療で“プロトピックが安定への鍵”になるケースは非常に多いです。
② コレクチム(デルゴシチニブ)
乳児から使えて“かゆみに効きやすい”新しい選択肢**
コレクチムは JAK阻害作用 によって炎症を抑える薬です。
日本で開発された比較的新しい外用薬で、安全性が高いのが特徴です。
✅ 特徴
- 生後6か月から使用可能
- 顔・体どちらにも使いやすい
- 刺激感が少なく、塗り心地が良い
- “かゆみへの効果が出やすい”という印象も強い
✅ 使いやすい場面
- 乳児の湿疹がなかなか落ち着かない
- 顔や首に繰り返し赤みが出る
- 夜にかゆくて眠れない
- ステロイドの頻度を減らしたい家庭
👉 かゆみの改善が期待できるため、小児のアトピーでは“非常に使い勝手が良い”外用薬のひとつ。
③ モイゼルト(ジファミラスト)
生後3か月〜使える。刺激が少なく広く塗りやすい**
モイゼルトは PDE4阻害薬 で、炎症物質の産生を抑える作用があります。
✅ 特徴
- 小児外用薬で最も低月齢(生後3か月〜)で使用可能
- 顔にも体にも使える
- 軽い質感で広範囲に塗りやすい
- 刺激がとても少ない(プロトピックが刺激で使えない子にも使いやすい)
✅ 使いやすい場面
- 乳児湿疹〜アトピーの境目で悩む
- 広い範囲に軽く塗りたい
- 刺激に弱い子
- ステロイドの量を減らしたい家庭
👉 「赤ちゃんに使いやすい非ステロイド薬」として非常に重宝します。
④ タピナロフ(ブイタミー)
12歳以上。1日1回で済む新世代の外用薬**
タピナロフは AhR(アリール炭化水素受容体) に作用する
“まったく新しいタイプ” の抗炎症薬です。
✅ 特徴
- 12歳以上から使用可能
- 1日1回の塗布で良い
- 思春期の子どもが嫌がりにくい使用感
- 長期使用の安全性が高い
✅ 使いやすい場面
- 思春期の慢性的なアトピー
- ステロイドを嫌がる中高生
- 顔以外の広い炎症
- 忙しくて1日2回塗れない子
👉 中学生〜高校生の“第二の選択肢”として非常に役立ちます。
どう使い分ける?
小児科専門医の目線から、それぞれの非ステロイド外用薬を表にしました。
| 状況 | おすすめの薬 | 理由 |
|---|---|---|
| 乳児(0〜1歳) | モイゼルト / コレクチム | 刺激が少なく、乳児でも安全に使える。 |
| 顔の慢性湿疹 | プロトピック / コレクチム | 顔はステロイドが使いにくいため。 |
| 刺激が苦手 | モイゼルト | 非常に刺激が少なく塗りやすい。 |
| かゆみが強い | コレクチム | かゆみの改善を実感しやすい。 |
| 首・わき・陰部 | プロトピック / コレクチム | ステロイドの副作用が出やすい部位。 |
| 中高生 | タピナロフ | 1日1回で続けやすい。 |
👉 「ステロイドで炎症を素早く抑え、非ステロイド薬で維持する」
これが安定しやすい治療パターン。
“ステロイド以外にも選択肢がある”ことは親御さんの安心につながる
アトピー治療で一番つらいのは
「治療法が限られている」と感じてしまうことです。
しかし現在は、
ステロイド以外にも複数の選択肢があり、使い分けが可能な時代です。
選択肢が増えることで得られる安心感
- 顔・首などデリケートな部位にも使いやすい
- 長期治療の負担が減る
- ステロイドの頻度を下げられる
- 子ども自身が塗りやすい薬を選べる
- 親御さんが治療を前向きに続けやすくなる
アトピー治療は「これしか使えない」ではありません。
症状・年齢・部位に合わせて“最適な薬を組み合わせる”ことが大切です。
まとめ
- ステロイドが使いにくい部位や維持治療に、非ステロイド薬が役立つ
- プロトピックは刺激ありだが顔・首に強い
- コレクチムは乳児もOKで、かゆみにも効きやすい
- モイゼルトは生後3か月~使えて刺激が非常に少ない
- タピナロフは12歳~で1日1回の使いやすさが魅力
- 年齢×部位×症状で使い分けると治療が安定しやすい
👉 次回は 保湿剤の種類と選び方(ワセリン・ヘパリン・ヒルドイド・親水クリームなど)を徹底解説 します。

