🌱 はじめに
秋から冬にかけて流行するRSウイルス感染症。
多くの子どもが2歳までに一度は感染する、非常に身近なウイルスです。
多くの場合は軽い鼻かぜで済みますが、特に生後6か月未満の赤ちゃんでは、
呼吸が苦しくなってミルクが飲めなくなったり、入院が必要になることもあります。(RSウイルスについてはこちらにわかりやすくまとめています。)
そんなRSウイルスから生まれたばかりの赤ちゃんを守るために登場したのが、
妊婦さん向けの新しいワクチン「アブリスボ(Abrysvo®)」です。
👉 「お母さんが打つことで、生まれてすぐの赤ちゃんを守る」——そんな新しい予防の形です。
💉 アブリスボとは?
アブリスボは、ファイザー社が開発したRSウイルスワクチンで、
妊婦さんに接種することで体内にRSウイルスへの抗体が作られ、
その抗体が胎盤を通して赤ちゃんに移行します。
赤ちゃんは生まれた直後、自分でウイルスに対抗する力(免疫)がまだ十分ではありません。
しかしお母さんの抗体を受け取っておくことで、生後早期の重症RSウイルス感染を防ぐことができます。
👉 お母さんの免疫を“最初のバリア”として、赤ちゃんにプレゼントするワクチンです。
⏰ 接種のタイミング
日本での推奨接種時期は妊娠28〜36週の間に1回。
接種後およそ2週間で抗体が十分に上がるため、
出産の2週間以上前に接種できると理想的です。
海外では妊娠24週以降でも接種可能とされていますが、
実際には妊娠後期の落ち着いた時期に、かかりつけの産婦人科で相談して接種を検討するとよいでしょう。
👉 タイミングを逃さないように、妊娠後期に計画的に相談を。
👶 効果と期待される保護
臨床試験では、アブリスボを接種した妊婦さんから生まれた赤ちゃんは、
- 生後3か月までの重症RSウイルス感染を約8割減らす
- RSによる入院のリスクを約7割減らす
といった結果が報告されています。
効果は生後6か月頃まで持続し、特に感染が最も重くなりやすい生後3か月以内の期間に強い予防効果が得られます。
👉 「生後まもない時期の入院を防ぐ」ことが、このワクチンの最大の目的です。
⚠️ 安全面について
アブリスボは2024年に日本でも承認されたばかりの新しいワクチンです。
海外ではすでに数十万人規模で使用されており、
妊婦さんや赤ちゃんへの重篤な副反応の増加は報告されていません。
主な副反応は、接種部位の痛み・倦怠感・頭痛などの軽度なものです。
とはいえ、日本国内では導入から間もないため、
これから使用実績を積み重ねながら、安全性を丁寧に評価していく段階にあります。
そのため、接種を希望する場合は必ず主治医と相談し、メリットとリスクを理解したうえで判断することが大切です。
👉 日本では始まったばかりのワクチン。信頼できる医療機関で相談を。
🩺 小児科専門医として感じること
これまでRSウイルスの予防といえば、
早産児や心疾患などの重症化リスクを持つ赤ちゃんだけが対象でした。
現在も、日本ではそうしたお子さんに対しては「シナジス®」や「ベイフォータス®」といった抗体薬が公費(無料)で使用可能です。
一方で、アブリスボは赤ちゃんに基礎疾患がなくても接種できるのが大きな特徴です。
RSウイルスは「元気な赤ちゃん」でも、低月齢で感染すると呼吸が苦しくなり、
入院を要するケースを小児科ではたびたび経験します。
そうした現場を見ている立場からすれば、
「もしお母さんのワクチンで、そのリスクを少しでも減らせるなら、
ぜひ打っておいてほしい」——これが小児科医としての正直な思いです。
👉 元気な赤ちゃんでも、RSで苦しむことがあります。
“打てる機会があるなら守ってあげたい”というのが医師の願いです。
☀️ まとめ
- RSウイルスは、元気な赤ちゃんでも重症化することがある感染症です。
- アブリスボは妊娠中の接種で、赤ちゃんの「最初の冬」を守るワクチンです。
- 妊娠28〜36週の間に1回接種。主治医とタイミングを相談しましょう。
- 日本では始まったばかりですが、今後広く普及すれば、多くの赤ちゃんを救う可能性があります。
👉 お母さんの小さな“ひと針”が、赤ちゃんの大きな安心につながります。

