「子どもが朝なかなか起きられない」「午前中は体調が悪いのに、午後になると元気になる」――そんな姿に戸惑ったことはありませんか?
前回の記事では、体内時計のずれで夜眠れず朝起きられなくなる「睡眠相後退症候群」について解説しました。
今回は、それとは別の原因で「朝起きられない」状態を引き起こす 起立性調節障害 を取り上げます。
目次
起立性調節障害とは?
起立性調節障害は、自律神経のバランスがうまく働かないために起こる病気です。
人は立ち上がると、血液が重力で下半身に溜まりやすくなります。健康な状態なら、自律神経が働いて血圧や心拍を調整し、脳に十分な血流を保ちます。
しかし、起立性調節障害の子どもではこの調整がうまくいかず、脳への血流が一時的に不足してしまうのです。
その結果、
- 立ちくらみやめまい
- 動悸や息切れ
- 朝の強い倦怠感
- 午前中は頭が働かない、気分が悪い
- 午後になると自然に元気を取り戻す
といった症状が見られます。
小学校高学年から増え、中学生の1〜3割が経験すると言われるほど、実は珍しくない病気です。
👉「決まった症状がないのも特徴で、中には午後に再度気分が悪くなる人もいます。」
どんな症状が出るの?
起立性調節障害の症状は一つではなく、体のいろいろなサインとして現れます。
- 立ちくらみやめまいで授業中に集中できない
- 長時間立っていられず、時には失神してしまう
- 朝は頭痛や腹痛が強く、起きられない
- 顔色が悪く、全身のだるさを訴える
- 食欲が出ず、乗り物酔いもしやすい
これらは「怠け」や「気分の問題」と誤解されがちですが、実際には 体の調整機能の不調による医学的な症状 です。
👉「“朝起きられない”だけでなく、頭痛・腹痛・立ちくらみなどの症状も伴う場合は、起立性調節障害を考えてみてください。」
診断の流れと「新起立試験」
起立性調節障害の診断では、まず 問診と診察 が大切です。
朝の不調や午後の回復といった日内変動の有無を確認し、血液検査や心電図で他の病気を除外します。
そのうえで行われるのが 新起立試験(head-up tilt test) です。
新起立試験とは?
- ベッドに仰向けで10分ほど安静にする
- その後、ゆっくりと立ち上がる(またはベッドを斜めに起こす)
- 立位を10〜20分維持し、その間の血圧や脈拍の変化をモニターする
このとき、
- 血圧が急に下がる
- 心拍数が大きく上がる
といった反応が確認されれば、起立性調節障害の診断につながります。
👉「新起立試験は、“立ち上がったときに体がどう反応するか”を客観的に確認できる大切な検査です。」
治療と対応の基本
1. 正しい理解(疾病教育)
まずは「怠け癖ではなく、自律神経の不調による病気」であることを本人と家族が理解することが大切です。
「治療には時間がかかるが、改善が期待できる病気」であると知るだけでも、子どもや家族の気持ちは軽くなります。
2. 生活習慣の工夫
- 急に立ち上がらず、ゆっくり体を起こす
- 水分を1.5〜2L摂取し、塩分も意識的に摂る
- 長時間立ち続けることを避ける
- 毎日の散歩や軽い運動を習慣にする
- 弾性ストッキングなどで下半身に血液が溜まるのを防ぐ
3. 学校との連携
- 診断書を提出して理解を得る
- 午前中は無理に登校させず、午後から登校する選択肢も
- 体育や激しい運動は体調をみて調整する
4. 薬物療法(必要な場合のみ)
生活習慣の工夫だけでは改善しない場合、薬が使われることもあります。
- 血圧を支える薬
- 心拍の上昇を抑える薬
- 症状に応じた漢方薬
ただし薬はあくまで補助的な手段であり、生活リズムの改善と並行して行うことが基本 です。
👉「薬は“支え”のひとつ。まずは生活や環境を整えることが治療の柱です。」
まとめ
- 起立性調節障害は 珍しくない病気 で、思春期の子どもに多く見られます。
- 「午前中に不調、午後は元気」という日内変動が大きな特徴です。
- 叱ったり「やる気がない」と決めつけたりすると、子どもは理解されないと感じてさらにつらくなります。
- 学校生活や人間関係に影響が出る前に、早めに小児科や専門外来に相談することが大切です。
- 治療には時間がかかることもありますが、適切に対応すれば改善が期待できる病気です。
👉 「朝起きられない」には必ず理由があります。理解とサポートこそが、子どもの安心と回復につながります。

