「うちの子が朝なかなか起きられない」「学校に行きたい気持ちはあるのに布団から出られない」――そんな相談は小児科外来で年々増えています。
前回の記事では「コリック」や「子どもの睡眠障害」について触れましたが、今回は学童期から思春期にかけて多く見られる “朝起きられない”問題 を取り上げます。
特に、医学的に「睡眠相後退症候群(Delayed Sleep-Wake Phase Disorder:DSWPD)」と呼ばれる状態に焦点を当てて解説します。
思春期はなぜ夜型になりやすいの?
思春期になると体の仕組みそのものが変わります。
眠気をコントロールする「メラトニン」というホルモンの分泌が夜遅くにずれることで、自然と夜型の生活になりやすくなるのです。これは「クロノタイプ」と呼ばれる体質の違いでもあり、遺伝的要因も関わっていると考えられています。
さらに、スマホやゲームのブルーライト、塾や宿題での夜更かしといった生活要因が加わると、寝る時間はますます後ろへずれてしまいます。結果として「夜中の2〜3時にならないと眠れない → 朝は当然起きられない」という悪循環に陥ります。
👉 思春期の夜更かしは怠けではなく、“体の仕組みの変化”と“生活習慣”が重なった現象 なのです。
睡眠相後退症候群とは?
睡眠相後退症候群は、体内時計が極端に後ろへずれることで起こる睡眠障害です。
- 本人は眠ろうとしても眠気が来るのは深夜(ときに午前3〜6時頃)
- 朝の決まった時間に起きることが非常に困難
- 休日は昼まで眠っているのに、平日だけ遅刻や欠席を繰り返す
こうした特徴から、親御さんや学校の先生から「怠けているのでは?」と誤解されることも少なくありません。
しかし実際には、本人の意思や根性ではどうにもできない医学的な睡眠障害 なのです。
👉 「夜眠れず朝起きられない」は意思の問題ではなく、医学的に説明できる体内時計のずれです。
朝起きられない子どもが増えている背景
近年、不登校の子どもは全国で30万人近くにのぼり、その背景には「朝起きられない」状態がしばしば関わっています。
生活習慣の乱れだけでなく、睡眠相後退症候群のような体内時計の障害が関係しているケースも少なくありません。
また、同じ「朝起きられない」症状でも、起立性調節障害(OD) のように自律神経の不調による病気もあります。背景は異なりますが、症状だけを見ると似ているため、専門的な診断が必要になることもあります。
👉 「朝起きられない=怠け」と決めつけず、背景に医学的要因がある可能性を知ることが第一歩です。
どう対応すればいいの?
生活リズムの工夫
- 就寝2時間前にはスマホやゲームをやめ、強い光を避ける
- 寝室を暗く静かに保つ
- 朝はカーテンを開けて光を浴びる。できれば外に出て太陽光を浴びる
- 休日も平日と同じ時間に起きる
医学的な治療
生活習慣の工夫だけでは改善が難しい場合、医療的なサポートが検討されます。
- メラトニン作動薬:眠気を前倒しにし、夜の入眠を促す
- オレキシン拮抗薬:自然な眠りを導き、安定させる
- アリピプラゾール少量投与:朝の覚醒を促す効果があると報告されています
👉 薬はあくまで補助的。生活リズムの調整と組み合わせて使うことが大切です。
まとめ ― 親御さんに知ってほしいこと
- 子どもが「朝起きられない」のは、意思の弱さではなく 体内時計のずれ(睡眠相後退症候群) が背景にあることがあります。
- 「休日は元気なのに平日だけ起きられない」場合は、怠けではなく睡眠リズムの問題かもしれません。
- 「起立性調節障害」など別の病気が隠れている場合もあるため、判断に迷ったら小児科や睡眠専門医に相談してください。
- 学校生活や将来に影響するため、早めの対応と支援 が大切です。
- 薬物療法が必要になることもありますが、基本は生活リズムを整える工夫から始めます。
👉 「朝起きられない」には必ず理由があります。叱るのではなく理解して、一緒に解決していくことが子どもにとって最大の支えになります。

