先日、救急外来に 生後4か月の赤ちゃん が心肺停止の状態で搬送されてきました。
夜中の授乳までは普段と同じようにミルクを飲み、いつも通り眠っていたとのこと。
しかし、朝ふと様子を見に行くと、すでに冷たくなっていた——。
その赤ちゃんは、救急隊の方々の必死の蘇生も届かず、到着時にはすでに亡くなっていました。
何度経験しても慣れることのない瞬間です。
医療者として、そして同じ子をもつ親として、胸が引き裂かれるような思いでした。
私はこの仕事をしている限り、こうした“突然の別れ”に立ち会わざるを得ないことがあります。
でも、同じような経験をする家族が少しでも減るように、伝えられることはすべて伝えたい。
今回はその気持ちを込めて、「赤ちゃんが眠るときに起こりうる事故」をできるだけわかりやすくお話しします。
目次
■ SIDS(乳幼児突然死症候群)とは?
SIDSとは、元気だった赤ちゃんが
睡眠中に理由なく突然亡くなってしまう病気 のことです。
・原因はまだ完全には解明されていない
・1歳未満、とくに2〜6か月に多い
・深い眠りや季節性などの影響があるとされる
・男の子にやや多い傾向
医学が進歩した今でも、原因を確定できないことが多く、
残されるのは「なぜ?」という問いだけです。
しかし、世界中の研究から “発症率を下げる行動” が明らかになっています。
そしてもう一つ重要なのは、赤ちゃんの睡眠中には 窒息事故 という別のリスクが存在すること。
これは 環境を整えるだけで防げるもの です。
ここからは、今日から家庭でできる対策を詳しくお話ししますね。
■ SIDSのリスクを下げるためにできる3つのこと
① 1歳になるまでは「仰向け」で寝かせる
SIDSのリスクと最も関連するのが 寝る姿勢 です。
うつ伏せ姿勢は世界中で危険性が繰り返し報告されています。
横向きも睡眠中にうつ伏せになりやすいのでNG。
・必ず仰向けで寝かせる
・寝返りできない時期は特に注意
👉 「寝返りができて、自分で仰向けに戻れる赤ちゃん」はそこまで神経質にならなくて大丈夫です。
ただし、生後0〜5か月は“親が寝姿勢を決める時期”。
この時期の姿勢調整はとても重要です。
② 無理のない範囲で母乳育児
母乳育児は、SIDSの発症率を低下させるといわれています。
・母乳の免疫作用
・授乳リズムによる覚醒度の変化
・母子の触れ合いが増える
こうした複合的な要因が影響していると考えられています。
しかし、強く伝えたいのはこれです。
👉 母乳が難しくても大丈夫。ミルクは素晴らしい栄養源です。
育児は“できる範囲で、心身に無理なく” がいちばん大切です。
③ たばこは必ず避ける(受動・三次喫煙含む)
SIDSと強く関係しているのが 喫煙 です。
・妊娠中の喫煙
・家庭内での受動喫煙
・衣服や髪についた三次喫煙
これらはすべて赤ちゃんの呼吸中枢に影響し、SIDSのリスクを高めます。
そして冒頭で紹介した亡くなった赤ちゃんのご家庭でも、両親とも喫煙者だった という背景がありました。
👉 「赤ちゃんの周りでは絶対に吸わない」ただそれだけで命を守れる可能性があります。
■ SIDSとは別に、もっと多い“睡眠中の窒息事故”
医療の現場では、「SIDS」よりもむしろ 窒息事故 のほうが多く見られます。
とくに生後3か月未満の赤ちゃんに危険が集中しています。
これは、環境を整えるだけで“ほぼ確実に防げる事故”です。
■ 窒息を防ぐための5つのポイント
① 寝具は硬めで平らなもの
柔らかく沈む寝具は、鼻や口がふさがる原因になります。
・硬めのベビーマットレス
・布団の重ねすぎはNG
・大人用の柔らかい敷布団は危険
👉 大人からすると「ちょっと硬いかな?」くらいでちょうどいいです。
② 温度調節は「着るもの」で
掛け布団は寝ているうちに顔にかかり、窒息の原因になります。
・スリーパー
・着る毛布
・薄手のロンパースを重ねる
“掛ける”より“着せる”が鉄則です。
③ 寝床には何も置かない
かわいさのために置きがちなものも、寝ている間はすべて危険になり得ます。
・ぬいぐるみ
・枕
・タオル
・授乳クッション
👉 寝床は「何も置かない」が一番安全です。
④ 赤ちゃん専用の寝床を使う
大人と同じ布団で寝るのは危険が多いです。
・親の体が覆いかぶさる
・布団で顔がふさがる
・寝返りで挟まる
最も安全なのは
「同室・別寝(同じ部屋で、別々の寝床)」 です。
⑤ ベビー用品は“正しく使う”
便利な育児アイテムも、使い方を誤ると危険です。
・ベビーベッド
・ベッドガード
・添い寝用製品
これらは説明書の安全基準に沿うことが大切。
固定の仕方や隙間の有無にも気をつけましょう。
■ 特に注意が必要な赤ちゃん
以下の条件がある場合、より慎重な環境づくりをお願いします。
・早産・低出生体重児
・きょうだいにSIDSの経験がある家庭
・親が極度に疲れている/飲酒している
・授乳中に寝落ちしやすい
・生後0〜3か月で寝返りできない
小さな危険が重なることで事故は起きます。
逆に、小さな工夫を積み重ねることで、赤ちゃんの安全性は確実に高まります。
■ まとめ
赤ちゃんの睡眠の安全は、「知ること」から大きく変えられます。
SIDS予防の3本柱
- 仰向け
- 母乳(できる範囲で)
- 禁煙
窒息を防ぐ5本柱
- 硬めの寝具
- 温度調整は着るもので
- 寝床には何も置かない
- 赤ちゃん専用の寝床
- ベビー用品を正しく使う
👉 今日からできる小さな工夫が、赤ちゃんの命を救います。
赤ちゃんが安心して眠れる環境づくりを、無理のない範囲で、でも確実に積み重ねていきましょう。
同じ悲しみを繰り返さないために、私も小児科医としてこれからも発信し続けていきます。

