子どもがタバコを誤飲したら?ー 危険性と正しい対応を小児科専門医が解説

子どもがタバコを誤飲したら?ー 危険性と正しい対応を小児科専門医が解説

はじめに

タバコは、日本において子どもの誤飲原因として最も多い危険物です。
身の回りにある製品の中でも、タバコは少量で命に関わるニコチンを多く含むことが知られています。

近年では、紙巻きタバコだけでなく、
加熱式タバコ・電子タバコ・水タバコ(シーシャ)
さらに禁煙補助具(ニコチンガムやパッチ)など、
子どもが誤って口にしてしまう可能性のある製品が増えています。

👉 「特別な家庭の事故」ではありませんどの家庭でも起こり得る、身近な中毒事故です


タバコ誤飲は、なぜそんなに危険なのか?

タバコ誤飲で問題になるのは、
**タバコ葉に含まれる「ニコチン」**です。

  • 子どものニコチン致死量:約10〜20mg
  • 紙巻きタバコ1本に含まれるニコチン量:約9〜28mg

👉 タバコ1本でも、子どもにとっては致死量に達する可能性があります

なお、タバコの箱に書かれているニコチン量は
「喫煙したときに煙として吸い込まれる量」であり、
タバコ葉に含まれる総量ではありません

👉 表示されている数字だけを見て「思ったより少ない」と判断するのはとても危険です


ニコチン中毒の症状(時間で変わるのが特徴)

ニコチン中毒は、時間経過によって症状が変化します。

誤飲後15〜60分(初期症状)

  • 吐き気・嘔吐
  • 腹痛
  • よだれが多い
  • 呼吸が速くなる
  • 脈が速い、血圧が高い
  • 落ち着きがない、興奮、ふるえ

誤飲後1〜4時間(後期症状)

  • 下痢
  • 呼吸が浅くなる、無呼吸
  • 脈が遅くなる、不整脈
  • 力が入らない、ぐったりする
  • ショック状態

👉 一度落ち着いたように見えても安心できません後から重症化することがあります


「意外と重症にならないことがある」理由

実際の医療現場では、
タバコを飲み込んでも重篤な中毒に至らないケースもあります。

その理由として、

  • 強い嘔吐作用で、吸収前に吐いてしまう
  • 胃の酸性環境ではニコチンが吸収されにくい

といった点が考えられています。

👉 ただし、これは「安全」という意味では決してありません


本当に危険なのは「タバコが溶けた液体」

特に注意が必要なのが、
ニコチンが水に溶け出した状態です。

タバコ葉は、水に30分ほど浸すと
ほぼすべてのニコチンが溶け出します

危険なのは例えば、

  • 灰皿代わりに使った缶・ペットボトル
  • 水に浸かった吸い殻
  • 電子タバコのリキッド

👉 液体は吸収が早く、重症中毒を起こしやすい。海外では電子タバコのリキッド誤飲による死亡例も報告されています。


身の回りにある「タバコ関連製品」にも注意

加熱式タバコ

  • ニコチン量は紙巻きタバコと同程度
  • 小さく、誤飲しやすい
  • 近年は金属片を内蔵したカートリッジもあり
    👉 ニコチン中毒+消化管異物のリスク

電子タバコ

  • 液体(リキッド)誤飲が特に危険
  • ニコチン入りリキッドは個人輸入で入手可能

禁煙補助具

  • ニコチンガム:約2mg/個
  • ニコチンパッチ:17.5〜78mg/枚

👉 特にパッチは、使用後もニコチンが残っている点に注意が必要です

水タバコ(シーシャ)

  • 香料や甘味があり、子どもの興味を引きやすい
  • 今後の普及に伴い注意が必要

タバコ誤飲を防ぐためにできること

誤飲事故を防ぐ大原則は、
**「子どもの手の届くところに置かない」**ことです。

子どもは想像以上に手が届きます。

  • 1歳:約90cm
  • 2歳:約110cm

👉 「高いところに置いたつもり」でも届くことがあります

また、

  • 1歳半までの子ども
  • 夕方5〜9時
  • 家庭内の居間

で誤飲事故が起こりやすいことも分かっています。

  • 使用後の吸い殻
  • 使用済みニコチンパッチ
  • 使用済みニコチンパッチ

は、袋に入れて口を縛るなどの工夫が重要です。


もし誤飲に気づいたら

家庭でできる対応は次の3つです。

  1. 口の中に残っているものを取り除く
  2. 水分は与えない
  3. すぐに医療機関を受診する

👉 無症状でも4時間は経過観察が必要。液体誤飲では短時間で重症化する可能性があります


最後に ― 親御さんへ

タバコ誤飲は、
**「知っていれば防げる事故」**です。

👉 忙しい日常の中の、ほんの一瞬。その一瞬で起こってしまうからこそ 事前の知識と環境づくりが大切です

この情報が、
大切なお子さんを守るきっかけになれば幸いです。