ワクチン未接種のリスクとは?ー小児救急の研究から分かる“情報不足”の問題

ワクチン未接種のリスクとは?ー小児救急の研究から分かる“情報不足”の問題

子どものワクチン接種について、
「本当に必要?」「副反応が心配」「周りが打っていないと言っていた」
と迷うご家庭が増えています。

迷うこと自体は悪いことではありません。
大切な子どものことだからこそ、慎重になるのは当然です。

ですが最近、小児救急の現場では
“ワクチンを受けていなかったために集中治療が必要となった”
というケースが少なくありません。

今回ご紹介する研究は、まさにその部分に焦点を当てたものです。

「なぜワクチンを受けていなかったのか?」
「どうすれば親御さんは正しい情報にたどり着けるのか?」

このテーマに真正面から向き合った、非常に示唆に富む内容です。


🌟 研究の概要:救急で見つかった“ワクチン未接種”の子どもたち

ご紹介する研究の正式な名前は、

「小児救急科で遭遇したワクチン接種への躊躇の症例シリーズ
(Case Series of Vaccine Hesitancy Encountered at the Pediatric Emergency Department)」

(2024年、Cureus誌)

難しそうに聞こえますが、内容はとてもシンプル。

✔ 小児救急で受診した子どものなか“本来打つべきワクチンを受けていなかったために問題が起きた”
ケースがどれくらいあるのか?

その家庭がどう感じていたのか?なぜ接種しなかったのか?

✔ 後日、専門の外来で丁寧に説明すると考え方は変わるのか?

こうした点を詳しく調べた研究です。


🚑 救急外来に来たワクチン未接種ケース:78件

研究では、ある期間に小児救急外来を受診した子どもたちのうち、
「ワクチンを受けていなかったことが原因/関係していた」
ケースが 78件 見つかりました。

たとえば…

  • 百日咳ワクチンがまだで、咳が長引き呼吸が苦しくなる
  • 肺炎球菌ワクチンを受けておらず、高熱でぐったりして入院
  • 麻疹やムンプスにかかってしまう
  • Hibワクチン未接種で細菌性髄膜炎のリスクが上昇
  • インフルエンザ未接種で高熱・脱水・けいれん など

本来、ワクチンで防げるはずの病気(VPD)が原因で救急に来てしまう
という現実が、数字として現れています。


🕒 救急は“説明する時間がない”のが最大の問題

救急外来は命を守るための場所。
スタッフは常に多くの患者さんを抱えながら全力で動いています。

そのため…

  • なぜワクチンを受けていなかったのか
  • どんな不安があるのか
  • 何を心配しているのか
  • 誰からどんな情報を聞いて“打たない”と判断したのか

こうした本質的な部分を、ゆっくり聞く余裕がありません。

本当は丁寧に話したいけれど、救急では難しい。

研究では、この“時間不足”こそが
親御さんが正しい情報にたどり着けない大きな壁
になっていることが示唆されていました。


💡 そこで作られた仕組み:「ワクチン教育外来」

この病院では、救急で十分説明できない問題を解決するために、
“ワクチンについてゆっくり説明する専用の外来”
を立ち上げました。

救急外来で
「ワクチン未接種が分かった」

後日、専門の外来に案内し、不安や疑問にじっくり向き合う

という流れです。

すると驚くべき結果が出ました。


📊 ワクチン教育外来を受けた家庭の94%が“考え方が前向きに”

救急で見つかった78件のうち、
31件(40%) が後日この「ワクチン教育外来」を受診。

そしてそのうち…

29件(94%)が、

“ワクチンへの見方が肯定的に変化した”

これは非常に重要なポイントです。

親御さんの多くは決して
「ワクチンを拒否したい」
のではなく、

“きちんとした情報が手に届かず、不安だけが大きくなってしまっていた”
ということが分かります。


🧭 ワクチンを打たない家庭を否定したいわけではありません

私自身、小児科医として強く思うのは、

ワクチンを迷うのは自然なこと
ということです。

大切な子どもの体に関わることだからこそ、慎重で当たり前。

しかし問題は、
🔸 SNSの断片的な情報
🔸 誰かの噂話
🔸 強い不安だけが先に立つこと
🔸 誤った情報が広がりやすい環境

こうした“情報不足”の状態で、
「打たない」という選択になってしまうことです。

その結果、
本来防げるはずの病気で苦しい思いをするのは子ども。

今回の研究は、
親御さんは決して「ワクチン反対派」ではなく、“正しい情報が届いていないだけ”という家庭が多い
ということを強く示していました。


👨‍⚕️ 小児科医としての学び:説明する時間をつくらなければならない

救急では十分に説明ができない。
だからこそ私たち小児科医は…

  • 外来でじっくり話す時間を作る
  • 不安を受け止め、寄り添う
  • ネット情報と医学的事実の違いを丁寧に伝える
  • 家族の価値観を尊重しつつ、最善の選択を一緒に考える

こうした姿勢を持つ必要があります。

私自身も、今回の研究を読み、
「もっと説明の機会をつくらなければ」
と深く感じました。


🌱 まとめ:迷ったら必ず相談してください

ワクチン接種は義務ではありません。
でも、
**“不安だけで避けてしまう”**のは、親御さんもお子さんも辛い結果につながります。

迷っているときこそ、小児科医に相談してください。

  • 救急でも
  • 外来でも
  • 予防接種相談の機会でも
  • 地域の相談窓口でも

どこでも構いません。

正しい情報に触れ、納得したうえで選ぶことが、
あなたのお子さんを守る最高の方法です。