はじめに
今年もインフルエンザが全国的に流行しています。
熱や咳、体のだるさ――子どもの風邪のように見えても、
実は**命に関わる合併症「インフルエンザ脳症」**が隠れていることがあります。
毎年100〜300人ほどの子どもが日本で発症しており、
まれではありますが、重い後遺症や命に関わることもある病気です。
発症の多くは発熱からわずか1〜2日以内。
「高熱だけだと思っていたのに、急に様子がおかしくなった」
――そんなときは、ただの熱と油断せず、すぐに受診することが大切です。
👉 「熱の高さ」よりも「いつもと違う様子」を見逃さないで。
インフルエンザ脳症とは
インフルエンザウイルスによる感染をきっかけに、
**脳の中で強い炎症やむくみ(脳浮腫)**が起きる病気です。
ウイルスが直接脳に入り込むわけではなく、
体の免疫反応が過剰に働くことによって神経を傷つけてしまうと考えられています。
発熱から1〜2日以内に急激に進行することが多く、
「朝までは普通だったのに、急にぐったりして反応がない」といったケースもあります。
どんな症状に注意すればいい?
インフルエンザ脳症では、いつもの熱とは明らかに違う“脳のサイン”が現れます。
- 呼びかけに反応しない、ぼーっとしている
- いつもと違う言動(意味不明な言葉、急に泣く・笑うなど)
- 嘔吐が止まらない
- 手足がピクピクする、けいれんする
- 眠っているように見えるが起きない
こうした症状がひとつでも見られた場合、迷わずすぐに救急要請を。
一見「熱せん妄(高熱による一時的な混乱)」や「インフルエンザ特有の異常行動」にも似ていますが、
見分けるのは非常に難しいため、迷ったらためらわず救急車を呼んでください。
👉 「様子を見よう」は禁物です。命に関わる病気のこともあります。
検査と治療
病院ではまず、頭部CTやMRIなどの画像検査で脳のむくみ(脳浮腫)や出血を確認します。
必要に応じて血液検査・髄液検査も行います。
診断がついた場合は、入院での管理が必須です。
二次救急以上(24時間対応の総合病院など)の医療機関で、
以下のような治療が行われます。
- ステロイドパルス療法:脳の炎症を抑える
- 免疫グロブリン療法:免疫反応を調整する
- 抗けいれん薬:けいれんのコントロール
- 脳圧管理・全身管理:脳のむくみを防ぐ
👉 早期発見・早期治療が回復のカギです。
解熱剤の選び方にも注意!
インフルエンザの発熱時に使用する**解熱鎮痛薬(市販薬を含む)**には注意が必要です。
イブプロフェン、ジクロフェナク、メフェナム酸などのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、
一部の研究でインフルエンザ脳症のリスクを高める可能性が報告されています。
これらはウイルス感染によって過剰になった免疫反応(サイトカインの放出)をさらに刺激し、
脳の炎症やむくみを悪化させると考えられています。
そのため、厚生労働省や日本小児科学会では、
インフルエンザ時の解熱剤はアセトアミノフェン(カロナール®など)を推奨しています。
また、市販の風邪薬の中にもイブプロフェンを含むものがあります。
インフルエンザが疑われる場合は、安易に市販薬を使わず、医師や薬剤師に確認を。
👉 「解熱剤ならなんでも同じ」ではありません。薬の選び方も大切です。
回復と後遺症
軽症の場合は数日で意識が戻ることもありますが、
重症例では運動麻痺や記憶障害、てんかんなどの後遺症が残ることもあります。
早期に治療を開始するほど、後遺症のリスクを減らせることがわかっています。
予防できること
完全に防ぐことは難しいものの、
次のような対策で発症リスクや重症化を減らすことができます。
- インフルエンザワクチンを接種する(重症化を防ぐ効果あり)
- 十分な睡眠・バランスの良い食事で免疫を保つ
- 感染拡大期は人混みを避ける
- 発熱時は安静にし、水分をしっかりとる
👉 「ワクチンで絶対防げる病気」ではありませんが、重症化を防ぐ大きな武器です。
🩵まとめ
- インフルエンザ脳症は発熱から1〜2日以内に発症する重い合併症
- 「けいれん」や「反応が鈍い」「意味のない発言」は要注意
- 5分を待たずに救急要請! 二次救急以上の病院でCT/MRIが必要
- 解熱剤はアセトアミノフェンを選び、市販薬にも注意
- ワクチンは重症化を防ぐための大切な予防策
👉 いつもの熱とは違うと感じたら、すぐに受診を。
その判断が、命を守ることにつながります。

