アトピー性皮膚炎の保湿治療 ― 子どもの肌を守る保湿剤の選び方と使い方を小児科専門医が解説

アトピー性皮膚炎の保湿治療 ― 子どもの肌を守る保湿剤の選び方と使い方を小児科専門医が解説

2025/11/12(水)

前回までは、アトピー性皮膚炎の治療で使うステロイド外用薬非ステロイド外用薬についてお話ししました。
どちらも炎症を抑える上で欠かせない薬ですが、実はアトピー治療の“中心”はそれだけではありません。

👉 「保湿」こそが、アトピー治療の基本であり、最も大切な日常ケアです。

保湿を続けることで皮膚のバリア機能を整え、かゆみや炎症を起こしにくい肌を育てていく。
アトピーを長期的に安定させるための鍵が、毎日の保湿ケアにあります。


🟤 保湿が大切な理由

アトピー性皮膚炎の肌は、「乾燥しやすく、外からの刺激を受けやすい」状態です。
皮膚のバリア機能が弱く、水分が逃げやすいことで、乾燥 → かゆみ → 掻く → 炎症 → さらに乾燥…という悪循環に陥ってしまいます。

保湿剤はこのサイクルを断ち切る“土台”。
乾燥を防ぐことで、炎症を起こす回数そのものを減らしていきます。

👉 薬を塗るよりも先に、“保湿を正しく続ける”ことが再発予防の第一歩です。


🟤 保湿剤の種類と特徴

保湿剤は、成分によって働き方や使い心地が違います。
それぞれの特徴を知り、部位や季節に合わせて使い分けましょう。

種類主な製剤名・成分特徴使用のポイント
ヘパリン類似物質含有製剤ヒルドイド®(軟膏・クリーム・ローション・フォーム)水分を抱え込み、皮膚をやわらかく保つ。血流を良くする作用もあり、一時的に赤みが強く見えることがある。全身の保湿に使いやすい。しみたりベタついたりしにくい。
尿素製剤パスタロン®・ウレパール®古い角質をやわらかくし、水分を保持。炎症やかき傷のある部位では刺激が出ることがある。
白色ワセリン系白色ワセリン・プロペト®・サンホワイト®刺激が少なく、皮膚をしっかり保護する。冬や乾燥が強い時期に◎。ベタつきが気になる場合は夜に使用。
亜鉛華軟膏サトウザルベ®、亜鉛華単軟膏保護・鎮静作用があり、湿潤を防ぐ。主におむつかぶれや陰部のトラブルなどに使用されることが多い。
アズノール軟膏グアイアズレン含有軽い炎症やかぶれの修復を助ける。陰部やおむつ部位の赤み・刺激性皮膚炎などに用いられる事が多い。

👉 保湿剤の種類によって使い分けは必要ですが、「しっかり塗り続ける」ことが最も大切です。


🟤 剤形(軟膏・クリーム・ローション・フォーム)の違い

同じ成分でも、剤形が違うと使用感が大きく変わります。
お子さんや季節、塗る部位によって上手に使い分けましょう。

剤形特徴向いている部位・季節
軟膏油分が多く刺激が少ない。保護力が高い。冬・乾燥の強い部位(頬・手足など)。
クリーム伸びが良く、軟膏よりベタつかない。全身・日中に使いやすい。季節を問わず◎。
ローション水分が多く、さっぱりした使い心地。夏・汗をかく部位(首・肘裏・膝裏など)。
フォーム(泡タイプ)広範囲に塗りやすく、べたつかない。頭皮や背中など広い面積に。毛のある部分にも塗布しやすい。

👉 お子さんが嫌がらず、続けやすい剤形を選ぶのも立派な治療です。


🟤 塗る量とタイミング

  • タイミング: 入浴・シャワー後 5分以内 が理想。
  • 量の目安: ティッシュが肌にくっつくくらい“しっとり”する量。
  • 回数: 朝・夜の1日2回が効果的。
  • 範囲:保湿剤は全身に使用してOK。健常な肌にも効果的。

👉 “きれいに見える肌”も乾燥していることが多いので、全身に塗ることが大切です。


🟤 ステロイドと保湿剤、塗る順番は?

とても多い質問ですが、まず結論から言うと――
👉 「どちらを先に塗っても効果に大きな差はありません」。

ただし、小児科専門医としておすすめする順番は先に保湿剤⇒後からステロイド外用薬です。
この順番が最も安全で、実際の現場でも推奨されています。


✅ ① ステロイドは“患部だけ”、保湿剤は“全身に”

ステロイド外用薬は部位によって吸収率が異なり、特に顔は吸収が6倍以上高いといわれています。
そのため、体用の強いステロイドを顔に広げてしまうと、副作用(皮膚の菲薄化や毛細血管の浮き出し)につながることがあります。

先に保湿剤を全身に塗り、そのあとにステロイドを患部だけに塗ることで、
顔に強い薬が広がるリスクを避けることができます。

👉 「保湿 → ステロイド」の順番が最も安全で確実です。


✅ ② 触って確かめて“塗り残しゼロ”

見た目では治ったように見えても、触るとザラザラ・硬さが残っていることがあります。
その部分にはまだ炎症が潜んでいます。

まず保湿剤を塗りながら、親御さんの素手で肌の感触を確かめましょう
ザラつきのある部分を見つけたら、そのあとにステロイドを塗ることで、塗り残しを防げます。

👉 親御さんはぜひ素手で塗ってください。お子さんの肌の変化を感じられ、ご自身の手の保湿にもなります。


🟤 よくある誤解

  • 「赤みが引いたら保湿は不要」 → ✖ 寛解期でも継続することが再発防止に。
  • 「保湿剤はどれも同じ」 → ✖ 成分や剤形によって刺激性・保湿力は大きく異なります。
  • 「混ぜて塗ると時短になる」 → ✖ 薬の安定性が変化するため推奨されません。
  • 「少しだけ塗ればいい」 → ✖ 少なすぎると効果が不十分になります。

👉 “しっかり塗る+順番を守る”ことで、副作用を防ぎ、肌を守れます。


🟤 まとめ

  • 保湿はアトピー治療の基本であり、最も大切なケア
  • ヘパリン類似物質は一時的に赤みが出ることもあるが問題なし。
  • 剤形(軟膏・クリーム・ローション・フォーム)を上手に使い分ける。
  • 塗る順番は「保湿 → ステロイド」。安全かつ確実な方法。
  • 素手で触れながら塗ることで、お子さんの肌の変化に気づける。

👉 次回は「入浴・洗浄・スキンケアの実際」について、小児科専門医の視点から詳しく解説します。