🌱 はじめに
秋から冬にかけて、「咳や鼻水が出てきた」「熱もあるけど風邪かな?」という症状で受診するお子さんが増えます。
見た目はただの風邪のようでも、実はRSウイルス感染症という別の病気であることがあります。
特に兄弟がいるご家庭では、保育園や幼稚園から上の子がウイルスを持ち帰り、
家庭内でうつし合ってしまうケースが多くみられます。
RSウイルスは2歳までにほぼ全員が一度は感染するほど身近なウイルスですが、
初めて感染する乳児ほど重症化しやすいのが特徴です。
👉 “いつもの風邪”に見えても、低月齢の赤ちゃんでは注意が必要です。
🦠 RSウイルスとは?
RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus:RSV)は、
呼吸器の粘膜に感染して炎症を起こすウイルスです。
鼻水や咳、発熱など、まるで普通の風邪のような症状で始まります。
特に鼻汁や痰といった分泌物が増えるのが特徴で、必ずしも発熱を伴うとは限りません。
しかし進行すると、細気管支炎や肺炎を起こすことがあり、
特に生後6か月未満の赤ちゃんでは、呼吸が苦しくなったり、ミルクが飲めなくなったりすることがあります。
RSウイルス感染の症状は、発症から4〜5日目にピークを迎えるのが特徴です。
初期は元気そうに見えても、経過の中で急に悪化することがあるため、
軽症に見える段階でも油断できません。
👉 「最初は元気でも、後から悪くなることがある」――RSのやっかいなところです。
💧 感染経路と流行の特徴
RSウイルスは、飛沫感染(咳やくしゃみ)と接触感染(手や物を介した感染)の両方で広がります。
おもちゃやタオルの共有、抱っこ中の咳などでも感染することがあります。
かつては冬に流行していましたが、最近では夏の終わりから秋にかけて流行することも多く、
地域によって流行時期がずれる傾向があります。
👉 季節を問わず流行が見られるため、1年を通して注意が必要です。
👶 重症化しやすいお子さんとは
RSウイルスは多くの子どもにとって自然に治る病気ですが、
中には重症化しやすい子もいます。
- 生後6か月未満の乳児
- 早産で生まれた子
- 心臓や肺に基礎疾患がある子
- 免疫の働きが弱い子
- ダウン症などの基礎疾患を持つ子
これらの子どもでは、呼吸困難や無呼吸発作を起こすことがあり、
入院して酸素投与や吸引を行いながら、症状のピークを超えるまで慎重に見守る必要があります。
👉 元気そうに見えても、低月齢児では慎重な経過観察が重要です。
🩺 診断と治療
診断は、鼻水を使った迅速検査で行います。
ただし保険適用には条件があり、すべての外来で必ず行うわけではありません。
治療の中心は対症療法(症状に合わせた対応)です。
RSウイルスそのものを治す薬はありません。
- 呼吸が苦しければ酸素吸入
- 水分がとれないときは点滴
- 痰が多い場合は鼻吸い・吸引
こうしたサポートを行いながら、症状のピーク(発症4〜5日目)を安全に乗り越えることを目指します。
全身状態がよくても、まだ発症初期であれば、ピークを越えるまでは入院で経過を見る施設もあります。
👉 RSの治療は「ウイルスをやっつける」ではなく、「体を支えてピークを超える」こと。
🛡️ 予防と新しいワクチン
RSウイルスは何度も感染を繰り返すウイルスで、一度かかっても免疫が長く続くわけではありません。
そのため、重症化リスクのある乳児には**抗体薬(シナジス®、ニルセビマブなど)**を用いた予防が行われています。
そして最近、日本でも導入が始まったのが、
**妊婦さんが接種できるワクチン「アブリスボ®」**です。
このワクチンを妊娠後期(妊娠28〜36週ごろ)に接種すると、
お母さんの体で作られたRSウイルスに対する抗体が胎盤を通して赤ちゃんに移行し、
生後すぐのRSウイルス感染を防ぐことが期待されています。
現時点では国内での接種対象は限られていますが、
「生まれる前から守る」という新しいアプローチとして、今後注目されるワクチンです。
👉 予防の形は少しずつ進化中。妊婦さん自身の接種で赤ちゃんを守る時代が来ています。
☀️ まとめ
- RSウイルスは「風邪によく似た」症状から始まり、乳児では重症化することがあります。
- 症状のピークは発症4〜5日目。初期が軽くても、後から悪化する場合があります。
- 治療はウイルスを直接治すものではなく、呼吸や水分を支えるケアが中心です。
- 予防の選択肢として、妊婦のRSワクチン「アブリスボ®」も登場しています。
👉 咳や鼻水が長引くとき、いつもよりミルクが飲めないときは、
「風邪かな?」と自己判断せず、早めに小児科へ相談を。

